【第9回不正対策勉強会】海外子会社の不正リスクにどう対処するか?
2023年10月18日SMBC日興証券株式会社人とKIBITが協力して膨大な量のモニタリングデータの全量チェックを実現AI の力で社員の経験差によるばらつきも解消
2023年10月30日【2023年10月6日開催 第10回不正対策勉強会】
もしも明日、自分の会社で不正問題が起きたら?
元『プレジデント』編集長が語る「不祥事に強い企業になるための3つの対処法」
ビッグモーター、日本大学、ジャニーズ事務所……。著名な企業や団体で不正問題の発覚が相次いでいます。これほど多くの企業(組織)でガバナンスが問われた年は、ここ数年でも珍しいでしょう。メディアの矛先は経営者に集中しがちですが、裁判で加害者側の弁護士がいるように、企業の場合にも組織内で問題に対処しなければならない実務者がいるはずです。こうした人たちは自身が不正に関与していなくとも、自社の名誉と存続のためにメディアや国民の矢面に立って対応しなければなりません。しかしながら、そのための準備や知識はほとんど共有されていないのが現実です。今回の勉強会でお招きしたのは、経済ジャーナリスト・イトモス研究所所長の小倉健一氏。政治家秘書や編集者として経験された様々な実例に触れながら、「企業不正」に対する具体的な対処法を伝授していただきました。
経済ジャーナリスト
イトモス研究所所長
小倉 健一
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業後、当時、衆議院議員だった小池百合子さんの秘書を経てプレジデント社へ入社。2020年に、経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任、経済広報センター(経団連)企業広報賞の審査員などを歴任。稲盛和夫、孫正義、柳井正、バフェット、似鳥昭雄、三木谷浩史、橋下徹、菅義偉、小池百合子、飯島勲など、日本を代表するトップリーダー100人超にインタビュー。現在は、自ら設立したイトモス研究所において、執筆活動と企業広報の支援を行う。ヤフーニュースのアクセスランキング総合1位を15度達成(2023年)。
株式会社FRONTEO
取締役/AIソリューション事業統轄 兼 社長室長
山本 麻理
広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルスケア事業を立上げ、事業計画、商品開発、マーケティング、営業戦略を実行し業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現。2018年12月より株式会社FRONTEOに参画、2020年取締役に就任しAIソリューション事業全域を管掌・指揮。
2023年は炎上イヤー。謝れば謝るほど国民の怒りは増す
企業の不正問題報道、有名人の不祥事報道が後を絶ちません。長年業界のタブーとされてきたジャニーズ疑惑もついに表面化し、大きな社会問題となっています。
小倉氏(以下敬称略):2023年はまだ終わっていませんが、今年は本当に多くの炎上案件が起こりました。記憶に新しいところでは、日大・林真理子理事長の謝罪会見です。理由はアメフト部の選手が大麻で逮捕されたからですが、わざわざ会見をやる必要があったのでしょうか。日大の危機管理体制のどこかに問題があり、初動を間違った結果、会見を開かざるを得なくなってしまったのだと思われます。
またビッグモーターの場合は、経営者に「頑張って会社を大きくしてきたのに、なぜこんなことに?」という思いがあるはず。でも、メディアにとって企業の改善や努力は全く関係ありません。最後の“ダメな部分”しか見ないからです。「エッフェル姉さん」として炎上した松川るい参院議員は、普段の行動に油断や甘えがありました。調べてみると国会で危うい発言を繰り返していましたから。本人は「こんなポーズを取っただけで大臣の芽が摘まれてしまうのか」と憤懣やるかたないでしょうが、私は起こるべくして起きた炎上案件だと思います。
いったん火が付いたらここぞとばかりに追求を続けるメディア。それが分かっていても、不正が発覚した企業は謝罪する以外にないのでしょうか?
小倉:メディアは記者会見での謝罪を求めますが、多くの場合、謝ったところで追求が止むわけではありません。謝り方がまずいと、追求はさらに続きます。夫婦関係のように、下手な謝り方をすると相手はますます怒って収拾が付かなくなる。それと同じことなのに、「謝ったら落ち着くだろう」と思っている危機管理担当者はとても多いのです。謝罪のリスクについては、米国イースタン・イリノイ大学の研究が参考になります。コミュニケーション学部の論文で、「謝罪は組織が危機の責任を受け入れて許しを請うことであり、組織にとって経済的に最も高価な対応になる」「責任の所在が不明であったり曖昧であったりする場合には、責任を認めないことが謝罪の重要かつ実行可能な選択肢である」と結論づけています。つまり情報提供や説得力のある反論など、謝罪以外の対処法もあるということ。謝ったらその時点で加害者であることが確定するから、安易に謝るなというわけです。ジャニーズ問題にメディアが飛び付いたのも、BBCの報道をきっかけに藤島ジュリー景子氏がインターネットで謝罪動画を流したから。あの瞬間、ジャニーズ事務所に非があることが確定したのです。
まず考えるべきは「本当に謝るべきかどうか」。小倉氏は、その次に考えるべきポイントがさらに重要だと指摘しました。
小倉:「どの立場の人間が謝るか」「謝った人間に対し、企業がどのようにフォローするか」です。日大の場合は学生個人の問題なのに、理事長が謝罪したこと自体が不自然でした。危機管理部門の責任者が、メディアに説明しさえすればよかったはず。謝罪は過剰な対応でした。
何か起きたときに危機管理担当者を待ち受けているのは、パニックになっている経営陣、突き上げるメディア、無慈悲な行政、厳しい捜査当局……。危機管理担当者のメンタルは悲惨なほどボロボロになります。もうお分かりだと思いますが、ここで重要なのは企業が適切かつ充分にその人をフォローすること。実際に組織的に悪いことをしていれば別ですが、そうでないのに、矢面に立たされた人が「割を食うだけ、非難されるだけ」の状況にしてはいけません。経営者は危機管理担当者が社を代表して謝罪することを業務の一環として捉え、謝罪した人が評価されるような社内体制を確立する必要があるのです。よくあるのは、危機管理担当者が無自覚な社長とメディアの板挟みになって行方不明になるケース。そんな不幸なことがないよう、管理部門の方々はこの点について社長とよく話し合っておくことをお勧めします。
炎上は不可抗力。公的に活動している誰にでも起こりうる
悩ましいのは、組織である限り不正を避けられないこと。過去にも多くの成長企業が炎上によって足元を掬われています。小倉氏は、誰もが知る2人の名前を挙げました。
小倉:1人目は京セラと第二電電を創業し、経営破綻した日本航空を再建させた稲盛和夫氏です。創業から25年が経った頃の京セラは、新事業として始めたセラミックス製の人工関節が大成功していました。それだけならよかったのですが、医師の要望が強かったことから、同社は厚生省(当時)の認可を受ける前の新製品を販売してしまったのです。これは明らかな薬事法違反。稲盛氏は世間からバッシングを受け、大きな挫折を味わいました。
2人目はファーストリテイリング会長の柳井正氏。ユニクロの製品に使用している中国・ウイグル自治区生産のコットンに、強制労働の疑いが浮上したのです。結果、米国の税関が同社製シャツの輸入を差し止めました。またウクライナ戦争勃発後の同社はロシアでの営業継続を表明しましたが、炎上を受けてあえなく撤退することに。この件でも柳井氏はかなり非難されました。海外展開する企業が自らの組織内でモラルを守ることは当然ですが、民主主義が実現していない取引相手の国々にそれを求めるのは難しい。炎上を恐れて何もしなければ、他国にビジネスを奪われてしまいます。
話は企業経営者に限りません。意外なことに、小倉氏ご自身にも炎上した経験がありました。
小倉:2017年の出来事です。当時の私は経済雑誌『プレジデント』の編集者で、世間には男性リーダーがアホなことをしてセクハラを訴えられている状況がありました。そこで、「セクハラにならない女性との接し方」という内容の話を弁護士にしてもらったのです。例えば、「密室ではなく、一般の店のようにオープンな場で話を進めるべき」という具合に。この記事が左派のアクティビストから激しく糾弾されたのです。
「記事どおりの手順を踏んだとしても、女性がセクハラと受け取ればそれはセクハラになる。女性への配慮が決定的に欠けている」と。なるほど、と思いましたね。そこまで思い至らず記事をつくりましたが、最後に1行、「どんな手順を踏んでも、女性がセクハラと受け取ればそれはセクハラになる」と書いておけばよかった、と後悔しました。結果的に批判は野党議員も加勢してきて、ずいぶんややこしくなりました。「編集部はセクハラを助長している」と世間の非難を浴びたのです。記事を読めばまったくそんなことはないのです。編集部で日頃からもっとSNSに力を入れていれば、きちんと反論できたのですが、こちらもそういう意味では準備不足でした。色々な媒体からインタビューを申し込まれたので、反論はしておきました。
本物の炎上ストッパーに学ぶ“3つの対処法”
小倉氏は13年間に渡るプレジデント社時代、小泉純一郎元首相の首席秘書官であり、今も内閣官房参与として活躍されている飯島勲氏の編集担当でした。飯島氏は情報管理のスペシャリストで、日本中のメディアをコントロールしたと言われている人物です。飯島氏から学んだ、不正に関する3つの対処法をあげていただきました。
対処法1.幹部の素行や言動をチェックし、不正の危機を未然に防ぐ
小倉:政治の世界では「それオレ詐欺」というのがあるんですね。何か政権が良い政策をおこなったときに、「それやったのオレです」という人が100人出現する現象です(笑)。しかし、飯島氏は何か起きても自分がやったともやっていないとも言いません。とにかく口の固い人。やっても「やった」と言わないので、やってないこともまで「あれをやったのはひょっとして飯島さん?」と周囲が捉えてしまうところがあります。絶対に敵に回したくない。
威圧感はありますが、実際に会うと物腰柔らかな人物です。この方の姿勢がそのまま“企業が不正問題に対処する具体的な方法”に当てはまるので、以下に具体的なポイントを提示しましょう。例えば組閣(大臣を新しく任命する)で大臣候補の『身体検査』(スキャンダルがないかの確認を指す)を任されたとき、飯島氏は素行チェックだけでなく過去の発言も細かく調べ上げていました。発言内容から、思想の傾向や行動のクセなどが分かるというのです。また大臣候補には自ら「遊びの時間はもう終わりだ」と釘を刺していました。噂が入った段階で、口うるさく注意喚起をしておくわけです。企業で幹部候補になるような人はプライベートも活動的でしょうから、こうした事前対応は極めて重要です。
対処法2.不正が発生したら、いち早く情報をキャッチして全貌把握に努める
小倉:飯島氏はメディアの反応に鋭く注意を払っていました。心掛けていたのは、誰よりも早く情報をキャッチして全貌の把握に努めること。新聞がメディアの中心だった頃は早朝3時の早刷りを見て、何もなければそのまま就寝。何かスキャンダルが起きていた場合は、小泉純一郎総理が起きてくる7時までに全ての対応を終わらせていました。一刻も早い情報収集がリスクを最小限に留めるのです。
対処法3.謝罪会見は1回のみ。それも1時間で終わらせる
小倉:飯島氏は、多くの閣僚の謝罪会見に関わってきましたが、1事件につき1回の記者会見で終わらせています。しかも1時間限定。1回で全ての情報を出し切ることができれば、「報道するものがない」メディアは続報を打てません。大きなスキャンダルが1回しか報じられないことと、小さなスキャンダルがずっと続くことでは、企業へのダメージは後者のほうが受けることになります。バレないと思って小出しにすることが危険だという認識をもったほうがいい。危機管理担当者が注意を払うべきは問題の大小ではなく、メディア関心度の大小、そして継続の有無。だからこそ、あらゆる情報を収集しておくことが大事になるのです。
3つの対処法をさらに深掘り。不正対策に役立つ“7つのTIPS”
不正対応で最も重要な点は、対処法1に挙げた事前準備です。小倉氏は「不正の発生数を減らすことはできますが、ゼロにすることはできません。絶対に事前準備をしてください」と改めて強調されました。最後に、小倉氏が作成した不正対策用のTIPSをご紹介しましょう。既に紹介したポイントも含まれていますが、これらの点を守れば実際に不正が起こっても慌てることはないはず。企業で危機管理を担当されている方は、ぜひ参考にしてください。
1.証拠を残す。メディアや行政は曖昧な状態を「黒」とみなす傾向があります。メールやメッセージなどの記録が、組織や当事者の安全を担保します。逆に犯罪者は証拠を残したくないという動機があります。
2.役職就任前に言動チェックを行う。候補者を権限の強い役職に就任させる際は、日頃の発言や行動をできる限り確認してください。特に執行役員になる際は、女性問題、借金問題、過渡の飲酒、ギャンブル癖の有無を念入りに。役職が高くなるにつけ、会社への責任がともなうことを自覚してもらいましょう。
3.不正が起きたら、誰よりも早く全貌把握に努める。メディアに漏れた場合を想定し、日頃から脳みそのトレーニングをしておきましょう。
4.すぐに謝罪会見を開かず、まずは他の対応ができないか考える。謝罪会見で炎上が止むことはありません。望ましいのはテレビに「絵」を取らせないことです。自分たちも損害を被っているなら、自分たちも被害者であることを強調しておくべきです。
5.会見は1回で終了する。重要なのは、その会見で全ての情報を出し切ること。メディアが新たな情報を入手したら、さらなる釈明を迫られます。
6.会見は監督官庁の記者会見場で行う。危機管理担当者は監督官庁に不正の報告書を提出します。その場にある記者クラブの会見場で丁寧に説明をしましょう。
7.自社の会見場を使わない。時間制限を設定しにくいことから、メディアの失言狩りがエンドレスになります。会見では同じようなことを繰り返し聞いて失言を待つような状態になる場合があります。失言を引き出すのが記者の役目だと感じられる場面もあり、注意が必要です。会見で足りなりことには、文書で誠実に答えましょう。
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。