【第8回不正対策勉強会】ビッグモーター事件から学ぶ内部不正の予防策
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海外子会社の不正リスクにどう対処するか?
グローバル企業が留意すべき準備と対策
海外子会社の不正行為や不祥事は、グローバル企業が抱える大きな課題の一つです。コロナ禍の最中は往査(遠方に出向いての監査)を含む出張や海外駐在が制約されたことで、海外子会社のガバナンスが脆弱化。不祥事の温床となっている可能性が指摘されていました。海外子会社の自浄作用が働かなくなると、いつの間にか親会社の認識できない不正行為が横行し、それを容認する企業文化が醸成されてしまいます。また、多くの企業は日本特有の長期雇用関係を前提とした管理体制をそのまま海外子会社に適用しがちですが、そこにも大きな危険が潜んでいます。今回のウェビナーでは、海外子会社における不正調査の実例に触れながら、グローバル企業が留意すべきコンプライアンス体制のポイントを紹介しました。講師にお招きしたのは、クロスボーダー紛争に関する豊富な知見を持つ弁護士であり、公認不正検査士としても活動されている松本はるか先生です。
株式会社FRONTEO
取締役/AIソリューション事業統轄 兼 社長室長
山本 麻理
広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルスケア事業を立上げ、事業計画、商品開発、マーケティング、営業戦略を実行し業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現。2018年12月より株式会社FRONTEOに参画、2020年取締役に就任しAIソリューション事業全域を管掌・指揮。
求められているのは“長期雇用関係を前提としないドライな仕組み”
海外子会社の不正問題はなぜ起こるのでしょう? 松本先生が話の端緒として説明されたのは、「日本の大手企業における従業員との関係性は、世界的に特殊とみなされている」という意外な事実でした。その前提にあるのは、日本企業特有の雇用関係です。
松本氏(以下敬称略):日本企業の従業員は、終身雇用に代表される長期雇用関係に守られています。会社に依存しているため、会社が不利益を被る不正を働きにくい。つまり、私腹を肥やす不正よりも「会社のために仕方なくやった」という不正が正当化されやすいのです。また、労働市場における流動性の低さも不正に対する一定のハードルになっています。不正が発覚して解雇された場合、簡単には転職できないからです。対する海外子会社の場合はどうでしょうか。大半の国では労働市場が流動的ですから、従業員は「不正が発覚したら辞めてしまえばいい。すぐに転職できる」と考えがちです。結果として、私腹を肥やすための横領や業績アップを見せかける会計不正に手を染めるケースが後を絶ちません。従業員個人の良心、倫理観、会社への忠誠心といった会社との関係性に頼るコンプライアンス体制は、とても弱く脆いもの。海外子会社の不正対策として考慮すべきは、その対極にある“長期雇用関係を前提としないドライな仕組みづくり”なのです。
松本先生は海外子会社の不正を考える際のヒントとして、機会・動機・正当化から構成される“不正のトライアングル”を引き合いに出されました。海外子会社の場合、日本とは少し異なる考慮要素があるという指摘です。
松本:まず機会について。海外子会社では従業員が同じポジションに長期間在籍しているケースが多々あります。その結果、他のポジションの従業員からチェックされる機会が減り、公務員との癒着が発生したりする。コロナ禍による駐在員の不在や往査がなかったことで、不正の機会はさらに増えていたと思われます。動機については、私腹を肥やすための経済的な利得が中心です。統計的に多いのは、営業職やマネジメント層における横領と会計不正。業績アップがボーナスやコミッションと紐付いているため、カルテルや談合、現地公務員への贈賄などに走りやすいのです。マネジメント層の賞与を業績連動型にしている企業は注意すべきでしょう。幹部レベルの不正は損害額も大きくなりますから、さらに気を付けなければなりません。最後は正当化について。マネジメント層が不正を行っている場合、一般の従業員には「上がやっているのだから自分もやっていい」という心理が働きます。幹部レベルの不正が代々続いている場合は、「前任者がやっていたのだからいいだろう」という理由で正当化。また、過去に日本の親会社が不正に対する厳正な対処を行っていなかった場合は、その事実が「親会社は不正を許容している」という負のメッセージになることもあり得ます。
海外子会社が不正の温床になってしまった事例
理解を深めるために松本先生が紹介されたのは、日本のメーカー(親会社)と海外販売拠点(子会社)の間で発生したある事例でした。
松本:通報・背景・調査・結果・対応の各視点から、この事例の詳細を見ていきましょう。本件は海外子会社に勤務する従業員からの「内部通報」によって発覚しました。その内容は、他の従業員による横領や汚職、談合など様々な不正行為が行われているというもの。実はこの会社、数年前に現地公務員への贈賄や官製談合への関与が認められたものの、該当社員は懲戒解雇ではなく戒告処分に留められ、全社員向けのコンプライアンス研修を実施して事態を終息させていたのです。これが、不正に至る「背景」。今回の内部通報を真剣に受け止めた同社は、FRONTEOのツールを使ったメールレビュー、可能な限りの抜き打ちインタビュー、会社に保管していた関係書面の精査など、新たな「調査」を実施しました。その「結果」明らかになったのは、想像を越えた数多くの不正実態。マネジメント層を中心とした不正が蔓延していました。結果として同社はガバナンスを正常な状態に戻すため、不正に関与していたマネジメント層を入れ替えるという「対応」を取らざるを得なかったのです。
不正発覚の事例に学ぶ“親会社が留意すべき準備と対策”
この事例から学ぶべき海外子会社におけるコンプライアンス体制とは、具体的にどのようなものでしょう? 松本先生は複数のポイントを指摘されました。
松本:1点目は「グループとして不正を許容しない」という、トップからのメッセージを明確にすることです。不正が発覚した場合は親会社として毅然とした対応を取り、「不正は看過しないし、中途半端な対応もしない」ことを周知することが重要です。グローバルステイトメントや定期的な研修など、周知の方法は問いません。気を付けるべきは中途半端な対応です。不正を行った従業員が事の重大性を認識せず、逆効果になりかねません。2点目は、親会社の適切な監視・コントロールです。日本企業が海外子会社の自立性を重んじるのはいいことですが、それが行き過ぎると不正の温床になることも。日本企業との違いを意識したガバナンス体制の構築が求められます。3点目は、現地におけるコンプライアンス担当者の選定・雇用条件の決定に親会社の法務部が関与すること。採用面接に立ち会うことはもちろん、普段からマメに連絡を取り合う必要があるでしょう。賞与や昇給の決定に一定の影響力を持つことも有効です。
多くの企業は海外子会社のガバナンスを現地の組織に任せていますが、その姿勢こそが問題を生んでいるとも言えるでしょう。松本先生の指摘は続きます。
松本:4点目は、不正に関与した従業員に対して必要な懲戒処分を行えるよう、現地法規を踏まえた項目を社内規定に明記しておくことです。親会社のグローバル・コンプライアンス規定が全ての海外子会社で強制力を持つことを確実にしておかなくてはなりません。法務担当の皆さまには、現地法に基づく根拠を含めてこの点を再確認していただきたいと思います。5点目として挙げるのは、親会社への通報窓口設置とその周知徹底です。子会社のマネジメント層が不正に関与していると、従業員が内部通報するまで親会社は不正に気付くことがきません。既に窓口を設けている会社は多いと思いますが、従業員がそれを知らないこともよくあります。設置時は英語だけでなく現地語にも対応し、定期的な研修を通じて利用促進を図りましょう。また、信頼できる現地の弁護士に協力を得ることも考えられます。ちなみに公認不正検査士を対象にしたアンケートでは、「通報制度のない組織の不正行為による損失は、制度のある組織の損失より2倍高い」という調査結果が出ています。早期に発覚・対応することで、企業は実際の損害を小さくすることができるのです。
SNSがビジネスの現場においても多用される現在、企業はその利用をどこまで制限すべきでしょうか? 法務担当者にとっては悩ましいところです。
松本:学ぶべき6点目のポイントは、メール等の監視・レビューを合法化しておくことです。直接的な証拠はさほど多くないものの、客観的な証拠の大半は電子メールのデータから得られています。個人情報保護規制があるのでハードルは高いのですが、少なくとも就業規則には「会社のアカウントを使ったメールはレビューの対象になること」「会社のアカウントを使った私用メールは不可であること」「違反した場合は懲戒の対象になること」を明確化し、従業員に周知しておきましょう。ここまでやれば、現地の法律事務所から「合法です」と言われる確率が高まります。最後のポイントは、重要書類の管理や決済をデジタル化すること。現地の子会社が書類を紙で保管していた場合、親会社は重要な取引に関する契約や経費関係の決済を即座にレビューすることができません。先の事例では重要書類が全て紙で金庫に保管され、その鍵を持った責任者が姿を消すという事態に陥りました。紙しかないのなら紙による管理規定を整え、確実に励行することが必要です。紙に対する依存度が高いアジアの子会社では、特に注意すべき点と考えます。
海外子会社の不正を未然に防ぐ“7つのポイント”
最後に、松本先生が挙げられたポイントを箇条書きにしてまとめました。グローバル展開されている企業、並びにそこで法務を担当されている方にとって、これらの指摘は海外子会社の不正リスクから自社を守る有益な情報となるはず。ぜひお役立てください。
- 不正を許容しないというトップの明解な姿勢の表明と、実際に不正が発覚した時の毅然とした態度(企業風土・一般予防に大きな影響)
- 親会社による適切な監視・コントロール
- 現地コンプライアンス担当者による実質的な指揮命令系統の明確化(採用・評価)
- 現地法に照らし、グローバル・コンプライアンス・ポリシーに法的強制力を付与(懲戒権)
- 内部通報制度の実行化(現地語対応・周知)
- 現地法に照らし、メール等の監視・レビューを合法化(個人情報規制)
- 重要な書面の管理や決済をデジタル化
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。