SMBC日興証券株式会社人とKIBITが協力して膨大な量のモニタリングデータの全量チェックを実現AI の力で社員の経験差によるばらつきも解消
2023年10月30日【第5回不正対策勉強会】「内部通報の件数が多い100社」ランキングから考察する仮説と対策
2023年11月17日【2023年1月17日開催 第2回不正対策勉強会】
日経記者が語る! 他社の失敗から学ぶリスク管理
~その時、法務やリスクマネジメントの担当者が取るべき姿勢は?~
総額約1000億円という過去最高の課徴金が命じられた電力カルテル問題や、2015年から経営を揺るがし続けてきた東芝の会計不正・株主総会不正運営問題。2022年は大手企業の不祥事や不正が頻発した年でした。こうした問題が企業経営や成長にダメージを与える範囲は、法令違反を越えて倫理的な領域にまで広がり始めています。損害は計り知れないほど大きいのに、企業はなぜ不正に手を染め、対応を誤ってしまうのでしょう? 今回の勉強会で講師を務めたのは、日本経済新聞社の記者として数多くの企業犯罪を取材してきた植松正史氏。具体的な企業不祥事の原因や影響を分析しつつ、他社が学ぶべき不正の予防策、コンプライアンス及びガバナンスのあり方を探りました。
日本経済新聞社
ビジネス報道ユニット(法務・税務取材チーム)
植松 正史
ビジネス法務や最先端分野に関するルールの動向、税務のトピックなどを取り扱う「法税務面」の担当デスク。1999年の入社以来、法務省や検察、国税庁などを担当。2015年以降は主に企業法務関連の取材を手掛けた。データ経済の広がりや米IT大手のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の動向、個人データの取り扱いを巡る諸問題にも精通。2019年度の新聞協会賞を受賞した連載企画「データの世紀」は、記者・デスクとして2018年の連載開始当初から担当した。
株式会社FRONTEO
取締役/AIソリューション事業統轄 兼 社長室長
山本 麻理
広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルスケア事業を立上げ、事業計画、商品開発、マーケティング、営業戦略を実行し業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現。2018年12月より株式会社FRONTEOに参画、2020年取締役に就任しAIソリューション事業全域を管掌・指揮。
課徴金は過去最高の約1000億円! 電力販売をめぐる“カルテル問題”
2022年に明らかになった企業不祥事・不正のなかで、植松氏が最初に取り上げたのは電力カルテル問題でした。同年12月、公正取引委員会が中部電力(販売子会社を含む)・中国電力・九州電力の3社に対してカルテルの疑いで課徴金案を通知し、意見聴取したのです(※2023年3月に課徴金納付命令書を発出)。
植松氏(以下敬称略):この問題は、企業の不正対応やリスク管理の観点で多くの示唆を与えてくれます。概略を説明しましょう。企業向けの電力販売において、3社はお互いの管轄区域を越えた営業活動を制限していました。市場競争阻害にあたる独占禁止法違反の事案です。実はこのカルテルには関西電力も含まれており、同社が2018年の秋頃から3社に対してカルテルを持ちかけたことが分かっています。注目していただきたいのは課徴金の額で、中国電力が約707億円、中部電力は子会社分を含めて約275億円、九州電力は約27億円とされました。3社合わせて約1000億円。国内の課徴金としては史上最高額です。ところが不思議なことに、カルテルの首謀者とされた関西電力は処分も課徴金も免れました。公取委が調査を開始する前に、課徴金減免制度(リニエンシー)を利用して違反行為を自主申告したからです。仮に処分を受けていたら、課徴金は単独で1000億円を越えていたかもしれません。九州電力の課徴金が他社に比べて少ないのも、調査が始まった段階で公取委に協力したからだと言われています。
この問題の背景にあるのは、2016年に始まった電力の自由化です。西日本では関西電力とこれら3社が激しい販売合戦を繰り広げていました。関西電力の攻勢を受けて疲弊していた3社は、同社からカルテルを持ちかけられて安堵したはずです。ところが数年後、当の関西電力が公取委へ駆け込んでカルテルが発覚しました。3社は安売り競争に負けたあげく、巨額の課徴金を支払う羽目になったのです。
3社にとっては酷い話ですが、植松氏は「不正対応という観点では全く違う風景が見えてくる」と指摘しました。
植松: 結果を見ると、関西電力と九州電力はリニエンシーを利用して多額のキャッシュアウトを避けることができました。一方の中国電力と中部電力は不正対応に出遅れ、多額の課徴金を課せられたわけです。もし独禁法違反が確定したら、3社は課徴金の支払いに加え、株主代表訴訟を起こされるリスクもあります(※2023年10月、関西電力を含む4社の株主が株主代表訴訟を提起)。不正対応という点で、関西電力と九州電力の判断は正しかったというべきでしょう。特筆すべきは関西電力のケースです。後から分かったことですが、2021年の4月くらいに公取委は中部電力・関西電力・中国電力の3社に立ち入り検査を行っていました。私の推察ですが、その半年くらい前に関西電力が自主申告し、公取委が内定調査を行ったと思われます。
植松: では、関西電力はなぜ自主申告できたのでしょう? 問題の源流には、2019年に発覚した福井県高浜町における金品授受問題があります。同社の役員が町の元助役から多額の金品を受け取っていたとして、刑事告発されたのです(※2021年に不起訴処分)。再出発を図るため、同社は2020年6月に経営陣を刷新。ガバナンス改革を行い、経営と執行を分離する指名委員会等設置会社に移行しました。この時期に社長を務めていたのが森本孝氏です。同氏は社長就任以前からカルテルに深く関わっていたとされる人物。監査委員会か社外取締役かは分かりませんが、関西電力はこの森本氏が社長だった時代に自主申告を決断したわけです。これは企業として思い切った判断。一筋縄でできることではありません。
この事案から学ぶべきことは何でしょうか? 植松氏は以下の3点を挙げました。
植松:第1は、「リスク対応はスピード勝負」だということ。不正にいち早く対応した関西電力は、巨額の損失を免れることができました。2点目は「不正は時限爆弾」だということです。先の金品授受問題は30年以上に渡って続いていた不正で、共同通信社のスクープ記事によって明らかになりました。不正はいつどこから発覚するか分かりません。企業の法務担当者は、常に不正発覚の恐れがあると認識すべきでしょう。最後に挙げたいのは、「会社は変われる」ということです。先の金品授受問題は古い企業体質から発生した不正ですが、関西電力は自社の力で社長を告発できるところまで、ガバナンス体制にメスを入れることができました。取り組み方次第で、企業は生まれ変わることができるのです。
不正対応で失敗を繰り返した東芝。経営が混乱し、上場廃止へ
植松氏が取り上げたもう一つの事例は東芝の不正問題でした。対応の未熟さにおいて、氏はこの10年で最も悪しき例と断じています。
植松:根幹にあるのは不正対応の失敗です。数が多すぎるので、ここでは2020年7月に起こった定時株主総会の不正運営問題に目を向けて見ましょう。東芝にはアクティビストと言われる外国人投資家が多く、同社は彼らからの厳しい質問を嫌っていました。そこで経済産業省へ外為法に基づいた行政指導をはたらきかけ(違法の疑いあり)、外国人投資家に圧力をかけて株主提案権の行使を妨げようと画策したのです。発覚後は経営幹部の責任が問われました。
この事案で異例なのは、外部調査が3回も行われたことです。問題になったのは、東芝の監査委員会が法律事務所に依頼した1回目の調査報告書。その内容はヒアリング対象が幹部3人のみ、メール調査もOutlookでキーワード検索するだけという、非常に“ぬるい”ものでした。結果は「東芝が株主に不当な圧力を加えた証拠はない」というもので、外部公表もしなかったのです。憤慨した外国人株主は、株主総会で選任された弁護士による2回目の調査を実施。AIを活用したデジタルフォレンジック調査を行いました。対象者は社内外の関係者9人以上、調査したメールは添付ファイルを含む約78万件、期間は約3カ月間。この調査にはFRONTEOも参加しています。導き出された結果は「総会が公正に運営されたとはいえない」という内容で、「東芝と経産省が一体となって総会運営を妨げた」と結論づけています。同時に1回目の調査内容も暴露され、株主は激怒。翌年の株主総会では再建の担い手だった取締役会議長の再任が否決され、同社はさらに迷走することになったのです。
株主を軽視した対応が招いた当然の結果ですが、東芝が取ったその後の対応はさらに酷い内容でした。
植松:2021年11月、再生を図る東芝はグループ全体を3分割する案を公表しました。ただしこの案を実現させるためには、株主総会の特別決議で2/3以上の承認を得なければなりません。それが難しいと判断した経営陣は、翌年2月、3分割案を2分割案に見直すとともに、産業競争力強化法の特例措置を申請する予定と発表したのです。これを使えば過半数の承認で分割が可能になりますが、本来は企業がイノベーションや成長速度を早める時だけに適用できる制度です。企業再建のための制度ではありません。
この話を聞いた時、私はほとほと呆れ果てました。東芝は経産省と癒着して株主を軽視したことから再建が厳しくなったのに、その再建案を経産省が主管する制度を利用して行おうとしたからです。法律的には許されるのかもしれませんが、これは企業として決してやってはいけないこと。取締役会で議論がなされていないこと自体が、“経営陣は何も学んでいない”証拠です。結局、この2分割案は3月の臨時株主総会で否決されました。
東芝ほどの大企業になれば、社内には法務やコンプライアンスの体制が整っているはず。それらは機能しなかったのでしょうか?
植松:東芝の不正問題処理に関わった弁護士に話を聞いた時、彼は「法務はブレーキをかけていたけど、無視されたんだよ」と答えました。外国人投資家を排除しようとした段階でアラートを発したけれど、完全に無視されたのだと。実は、経営陣が法務を無視する事例は珍しくありません。記憶に新しいところでは五輪汚職問題でのKADOKAWAがそうですね。法務が経営陣に不正出金を指摘したのに、そのまま突き進んでしまった。厳しい言い方をすれば、法務が機能しても経営陣に無視されては意味がないのです。
法務やリスクマネジメントの担当者が学ぶべき“3つの教訓”
電力カルテルと東芝の不正問題。2つの大きな失敗事例を他山の石とするため、植松氏は法務やリスクマネジメント担当者が学ぶべき「3つの教訓」を挙げました。
植松:前提となる第1のポイントは「高い調査力」です。言い逃れできない不正であることを証明するためには、平時から情報の収集体制を強化しておかなくてはなりません。東芝の株主が行ったデジタルフォレンジック調査のように、コンピューターなどの電子機器に残る記録の証拠保全・調査・分析が役に立つでしょう。同時に、情報提提供者を保護する内部通報体制の整備にも力を入れるべきです。
第2のポイントは「効果的な説得技術」。社員に対し、あれもダメ、これもダメでは無視されるだけです。効果があるのはホラーストーリー。例えば「今の段階なら傷は浅く済みますが、このまま無視すると大変なことになります」「株主代表訴訟になって、個人的に賠償金を払うことになりますよ」と、不正を行った者に「あなたのことを思ってアドバイスしてるんですよ」というニュアンスを交えながら、脅しをかけるのです。
最後のポイントは、法務やリスクマネジメントにおける最も重要な要素となる「信頼感」。これらの仕事はともすれば“ビジネスの邪魔者”に見られがちですが、そうではなく、長期的な視点で会社を守っていることを社員に理解してもらう必要があります。日頃から自分の役割を周囲に伝え、社内に“成長のための助言者”としての立場を確立することが重要。簡単ではありませんが、該当される方には“強く信頼される法務”を目指していただきたいと思います。
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。