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2023年9月8日【第9回不正対策勉強会】海外子会社の不正リスクにどう対処するか?
2023年10月18日【2023年8月23日開催 第8回不正対策勉強会】
ビッグモーター事件から学ぶ内部不正の予防策
損保会社は被害者か加害者か? 中古車販売会社不祥事で浮かび上がる「5つの教訓」
大手中古車販売会社・ビッグモーターの不祥事が世間を騒がせています。同社の社員が保険会社に内部告発したことが発端となったこの問題は、不正整備のレクチャー動画がネット上に拡散されて一気に炎上。保険会社への水増し請求、幹部から店長への日常的なパワハラ、街路樹不正撤去などの事実が次々と明らかになり、2023年7月28日には国交省が一斉立ち入りするまでに至りました。今回のレポートでは「不正を生む温床」や「内部告発の難しさ」、「カルテルに代表される損保業界特有のグレーな慣習」に言及し、内部不正が起こる要因を多角的な視点で解説。企業が内部不正を防ぐためのヒントを探りました。解説していただいたのは、企業法務の専門家であり、数多くの企業犯罪を取材してきた日本経済新聞社の植松正史記者です。
日本経済新聞社
ビジネス報道ユニット(法務・税務取材チーム)
植松 正史
ビジネス法務や最先端分野に関するルールの動向、税務のトピックなどを取り扱う「法税務面」の担当デスク。1999年の入社以来、法務省や検察、国税庁などを担当。2015年以降は主に企業法務関連の取材を手掛けた。データ経済の広がりや米IT大手のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の動向、個人データの取り扱いを巡る諸問題にも精通。2019年度の新聞協会賞を受賞した連載企画「データの世紀」は、記者・デスクとして2018年の連載開始当初から担当した。
株式会社FRONTEO
取締役/AIソリューション事業統轄 兼 社長室長
山本 麻理
広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルスケア事業を立上げ、事業計画、商品開発、マーケティング、営業戦略を実行し業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現。2018年12月より株式会社FRONTEOに参画、2020年取締役に就任しAIソリューション事業全域を管掌・指揮。
企業不正の温床になる“過大なノルマと利益圧力”
社員の内部告発により、損保会社3社がビッグモーターの不正請求を追求したのは2022年6月のこと。2023年1月には外部の調査委員会が立ち上がり、6月に調査報告書が公開されました。その内容があまりにも衝撃的だったため、報道に火が付いて社長と副社長は引責辞任。国交省の立ち入り検査を受けた後も、さらに多くの不祥事が明らかになっています。
植松氏(以下敬称略):ビッグモーターは顧客の車を修理する際、内容を水増しして保険会社に報告し、不正に保険金を請求していました。報道では従業員による車の意図的な損壊が話題になりましたが、私が驚いたのは、同社では取締役会が開かれたことがないという事実です。売上高7000億円、従業員6000名という規模からすると、あり得ないことです。ただ、今回の問題は“特異な会社の特異な問題”とは言い切れません。他社にも共通する多くの課題や問題を含んでいるからです。学ぶべき教訓は5つ。第1の教訓は「過度な圧力が不正を誘引する」ということです。調査委員会は、同社で働く塗装・修理部門の382人にアンケートを取りました。その結果、104人が「自ら不正に関与した」とし、68人が「自分以外の不正を見たことがある」と答えたのです。また、「なぜ不正が起こったのか」という質問に対しては260人が「会社が売上向上を最優先していたから」と答え、167人が「上司に逆らえなかったから」と返答。きついノルマを達成するため、高い割合で不正が行われていたことが分かります。
営業部門は買取台数や販売台数、サービス部門は車検の台数や保険会社に請求する修理費にノルマを設定。ビッグモーターは各従業員に苛酷なノルマを設定し、達成できないと降格人事や左遷人事を行っていたのです。
植松:実は、企業不正や不祥事の背景に利益優先の圧力があることは珍しくありません。かんぽ生命は顧客を騙す形で保険商品を不正販売していましたし、東芝は不正会計を繰り返して粉飾決算していました。三菱電機では検査不正が横行していましたし、東洋ゴム工業は免震ゴムのデータを偽装していました。これらの企業では上層部から強力な利益圧力があり、会社によってはかなりひどいパワハラもあったと言われています。体感では、企業不祥事のうち8割はこのパターンだと思いますね。難しいのは、ノルマ自体が悪いわけではないこと。従業員に圧力をかけるのは普通のことですが、度を超すと不正につながりかねません。管理者は従業員がやる気をなくすリスク、辞めるリスクには目を向けますが、最も恐ろしいのは不正に手を染めるリスクなのです。ビッグモーターの問題は、この見極めが難しいことを教えてくれました。
黙殺される内部告発。適切にキャッチするのは難しい
一線を越えたときに出てくるのが内部告発ですが、多くの事例を見てきた植松氏は「会社が適切に対応するのは難しい」と言います。調査報告書から明らかになったのは、まさにこの部分でした。
植松:ビッグモーターでは2022年1月頃、「千葉の酒々井店でG工場長が不正行為を行っている」という告発がありました。同店のH作業員が、前社長に宛てて証拠写真付きで通報したのです。G工場長は、ゴルフボールで車を傷付けていたいわく付きの人物。告発したH作業員はただの作業員ではなく、実は社長の甥っ子でした。親族だから言いやすかったのかもしれません。ところが、社長の返事は「なぜ協力できない? 仲良くやれ」という予想外のものでした。もともとG工場長とH作業員は仲が悪かったので、不正の告発が個人的な確執に矮小化されてしまったのです。実質的な調査は行われず、最後はうやむやになってしまいました。もしここで立ち止まっていれば傷口は浅かったのかもしれないのに、内部告発がスルーされた結果、不正行為が放置されてしまったのです。「内部告発を黙殺するな」。これが第2の教訓です。
植松氏によると、内部告発が黙殺されたケースは過去にも多々あるとのこと。不正融資が横行していたスルガ銀行は、銀行自体に内部告発を受け付けないような体質がありました。またオリンパスは過去に何度も内部告発者とのトラブルがあり、裁判になっています。
植松:一般的に言うと、内部告発は“くせ球”であることが多いのです。誰もが認める正義の味方がピカピカの証拠を持って告発することは、ほぼありません。往々にしてあるのは、私怨や出世争いを背景にした告発です。告発者が面倒くさい人物なら、受け手側が目をそらしたがることも多い。そもそも告発内容が曖昧で、どこまでが本当でどこまでが虚偽なのか判別できないことも珍しくありません。会社が内部告発を無視する理由は山ほどあるのです。しかしながら取り扱いが難しいことを理由にきれいな内部告発だけを待っていると、貴重なアラートを見逃してしまいます。会社は玉石混交の中から“貴重な玉”を見つける対応を行うべきでしょう。
事件になる見通しは低い? 切り取り方で構図が変わる経済事件
国交省の一斉立ち入りまで事が進んだビッグモーター問題ですが、その後は目立った動きがありません。今後の展開はどうなるのでしょう?
植松:想定シナリオは3つあります。「①検察が事件化しないケース」。そもそも事件にならないという解釈です。「②ビッグモーターによる保険金詐欺事件として立件するケース」。この場合は加害者がビッグモーターで被害者が損保会社になります。「③ビッグモーターの保険金詐欺と損保会社担当者の背任を同時に事件化するケース」。損保会社は被害者ではなく、意図的に会社に損害を与えたと見るわけです。現在のところ、検察の動きは鈍いですね。検察内部やOBからは、「損保会社は不正請求を知っていたはず」と言う声が聞こえてきます。水増しした保険金を払っていた保険会社は損をしていたと思われがちですが、ビッグモーターから利益率の高い保険契約者を割り振られていました。大きな目で見れば損はしていないのです。取材を踏まえた私の見通しは、可能性が高い順に1>2>3ですね。というのも、事件化するにはハードルがかなり高いからです。損保会社が不正を認識していたため彼らの「被害者性」が薄くなり、保険金詐欺の構図が成り立ちにくい。また、損保会社側の背任を立証する証拠も不足しています。検察は危ない橋を渡りたくないですし、ビッグモーターの存続自体が危ういので無理に事件化しなくてもいいのでは? という思惑もあります。
植松氏は第3の教訓として、「経済事件は切り取り方で構図が変わる」ことを挙げました。
植松:殺人や強盗などの犯罪で被害者と加害者の関係が変わることはまずありませんが、お金の流れを巡る企業不正が事件になる場合、「詐欺」「横領」「背任」「贈収賄」など様々な可能性が当てはまります。どれに該当するかは捜査当局の“切り取り方”次第。事件の構図はそれによって大きく変わり、被害者と加害者の関係が逆転することすらあるのです。もし自社の周辺で不正や疑惑が発生したら、「誰が加害者になり、誰が被害者とされる可能性があるのか」を冷静に判断してください。顧問弁護士だけでなく、警察出身者や経済事件を手掛けている弁護士に相談することをお勧めします。
“グレーな慣習”にどうやって歯止めをかけるか
この問題がマスコミで大きく報道された後、植松氏にはたいへん驚いたことがありました。7月25日の朝、ビッグモーターと深い関係にある損保ジャパンの社長が、自宅前で報道各社の囲み取材に応じたのです。
植松:テレビカメラの前で、社長は「(損保ジャパン側は)知りようがなかった。ビッグモーターに対する損害賠償も検討している」などと発言しました。報道する側としては有り難いのですが、損保ジャパンとしては最悪の対応です。自社が被害者になるのか加害者になるのか分からない段階で、手練れの記者相手にトップがべらべらと喋ってしまう。広報や危機管理担当者がコントロールしていたとは思えません。おそらく社長が自分の判断で対応したのでしょう。でも6月から問題になっていたのですから、広報はしっかり釘を刺しておくべきでした。「トップには“鈴”を付けるべき」。これが第4の教訓です。
最後に植松氏は、ビッグモーター問題とほぼ同じ時期に報道された損保業界の「大手4社によるカルテル疑惑」について言及しました。
植松:大手私鉄グループ向けの共同保険取引で、東京海上火災など4社が事前に価格を調整し、ほぼ同じ条件を提示していたという疑惑です。独占禁止法違反の疑いがあるため、金融庁や公正取引委員会が調査に乗り出しました。調査対象は仙台国際空港や石油元売り大手にも拡大しています。こちらもかなり大きな問題ですが、公正取引委員会は強制力のある立ち入り検査を実施していません。「証拠隠滅のおそれなし」と判断した模様で、排除措置命令と課徴金で決着になる見通しです。もともと損保業界には大規模な保険を共同で引き受ける際、各社で条件を擦り合わせるグレーな慣習があり、今回はそれがいつの間にか一線を越えてしまったと言われています。グレーな慣習はどの業界にもありますが、それを見直すことは企業にとってとても大切なこと。第5の教訓は「グレーな慣習にどうやって歯止めをかけるか」です。私がヒントにしたいのは、ユニリーバ・ジャパンの取り組み。同社は数年に一度、自社ビジネスの関連リスクを取締役に提出させる定期的な“棚卸し”を行っています。不正を未然に防ぐのは簡単ではありませんが、今回挙げた5つの教訓は、きっと皆さんの参考になると思います。
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(2023年10月6日 植松氏追記)
9月19日にビッグモーターと損保ジャパンに金融庁の立ち入り検査が入りました。これは、保険金の過大請求を繰り返していたビッグモーターの不正行為を、損保ジャパンがどこまで認識していたかの解明が焦点です。検査結果を踏まえ、金融庁は両社に、保険業法に基づく行政処分を出す方針とみられます。ビッグモーターは各店舗で、保険代理店業務も行っていたことから、同法に基づく処分対象になり得ます。刑事事件にはならず、行政処分によってビッグモーター、損保ジャパンの両社の責任が問われるというのは、いわば「第4のシナリオ」です。刑事事件としては、どの社も問題にならない代わりに、まったくのおとがめなしでは済まさないということです。保険業法に基づく行政処分には、免許や登録の取り消し、業務停止命令、業務改善命令などがあります。
ビッグモーターに関しては、自動車修理に関しても国土交通省の調査も受けており、こちらでも、道路運送車両法に基づく行政処分を受ける可能性があります。
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。