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第三者委員会経験を持つ現役弁護士×FRONTEOが語る不正のリアル
大手企業に不祥事が発生した際、「第三者委員会」を設置するケースが増えてきました。ニュースではよく耳にしますが、その内容や設置目的、役割などはほとんど知られていません。実際のところ、この委員会はどのような不祥事が起きた場合に設置されるのでしょうか? また、企業が自主的に行う内部調査とはどこが違うのでしょうか? 設置した場合の負担額や調査期間も気になるところです。今回の勉強会では第三者委員会の委員として多くの調査報告に携わった経験を持つ大下良仁弁護士をお招きし、第三者委員会の調査実態について詳細に解説していただきました。当日は株式会社FRONTEOの取締役・山本麻理に加え、執行役員であり、リーガルテックAI事業を統括している池上成朝も同席。支援業務を行っている立場から、具体的な調査内容について補足しました。
善国寺坂法律事務所
パートナー弁護士
大下 良仁
2008年九州大学法学部卒業、2010年に同法科大学院終了後、同年に司法試験に合格(新64期)し、2012年に判事補任官した。裁判官時代は、大分地方裁判所、東京地方裁判所で勤務し、2019年に弁護士登録(第一東京弁護士会)し、弁護士法人琴平綜合法律事務所に入所。現在は新たに設立した善国寺坂法律事務所に所属している。弁護士として、調査委員会等の企業不祥事対応、会社等を依頼者として、企業活動に関わる法律問題の助言、訴訟対応を中心に業務を行う。また、東京地方裁判所においては、知的財産専門部に所属していた経験を生かし、知的財産権に関連する業務にも携わる。
※セミナー登壇時は、琴平綜合法律事務所所属
株式会社FRONTEO
執行役員/リーガルテックAI事業 グローバル統括 兼 コーポレート管掌
池上 成朝
2003年に設立間もないUBIC(現FRONTEO)に入社。デジタルフォレンジックビジネス、ディスカバリ支援ビジネス(国際訴訟における証拠開示支援)、及びリスクコンサルティングビジネスなどの営業や企画を幅広く統括し、FRONTEOの祖業である各ビジネスの立ち上げに大きく貢献。2015年以降、新規事業立ち上げとして、自社開発した人工知能エンジン「KIBIT(キビット)」の活用分野の拡大に取り組み、現在のビジネスインテリジェンス分野やライフサイエンス分野の礎を築く。
株式会社FRONTEO
取締役/AIソリューション事業統轄 兼 社長室長
山本 麻理
広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルスケア事業を立上げ、事業計画、商品開発、マーケティング、営業戦略を実行し業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現。2018年12月より株式会社FRONTEOに参画、2020年取締役に就任しAIソリューション事業全域を管掌・指揮。
社会的信頼を回復し、再発防止に対する真摯な姿勢を世間に示す
そもそも第三者委員会とはどういう組織なのか? 勉強会はその定義を明らかにするところから始まりました。
大下氏(以下敬称略):調査委員会は企業でコンプライアンス違反等の不正事案が発生した際に設置される組織のことで、原因究明のために調査を行い、再発防止策を講じることを目的としています。企業の経営陣や監査部門を中心としながら、弁護士など外部の専門家も交えて組織するものを社内調査委員会、内部調査委員会などといい、委員を全て外部の者にし、調査結果報告に役員を関与させないのが外部調査委員会です。ただ、外部調査においても企業からの独立性が不十分な例がありました。そこで、2010年に日本弁護士連合会は「第三者委員会ガイドライン」を策定。これに依拠して設置された組織を第三者委員会と呼んでいます。ガイドラインに沿って運営する義務はありませんが、設置される場合は準拠しているケースがほとんどですね。また、第三者委員会は常設的な組織ではなく、発生した不祥事案件毎に設置されます。年間の設置数は約70で、ここ数年あまり数字は大きく変わっていません。企業において不正事案が発生した場合、事柄によっては内部調査で済ませることもできますが、不充分な対応で終わるリスクが払拭できません。外部の専門家による客観的で公正な調査をすることにより、社会的信頼を回復することが第三者委員会を設置する大きな目的です。企業と利害関係を持たない部外者に調査を委ねることで、不祥事の再発防止に対する真摯な姿勢を世間に示すことができるのです。
では、第三者委員会のメンバーにはどういう人々が選ばれるのでしょう? 一般にはなかなか見えない部分です。
大下:ガイドラインでは3名以上が原則とされています。主な専任委員は、弁護士、公認会計士、税理士、学識経験者やジャーナリストなど。当然ながら、顧問弁護士のように企業と利害関係がある人は就任できません。意外に知られていないのは、第三者委員会が実際の調査を外部の専門家に依頼していることでしょう。少ない委員で多岐にわたる調査を網羅することは不可能です。通常は調査担当の弁護士、公認会計士、デジタルフォレンジック調査(PCやスマホなどのデータから証拠を保全・分析すること)の専門家が関与し、企業の法務部門やリスク管理部門の担当者と情報共有しながら調査を行います。
第三者委員会による不祥事調査を支援しているのがデジタルフォレンジック調査。社会のデジタル化が進んだ現在、大下弁護士はこの調査が核になると指摘します。
大下:社内不正や情報漏洩などのインシデントは、そのほとんどがメールやテキストデータから発覚しています。調査で必要な証拠がデジタルデータに埋もれているため、膨大なデータを処理するには専門家の知見が欠かせません。近年はFRONTEOのようにAI技術を活用して高速かつレベルの高いデジタルフォレンジック調査を行っている会社もありますから、調査手法は以前より格段に進化しました。
設置を決めるのは誰か? 委員を選ぶ上での課題は?
第三者委員会の概要は理解できました。ここからは視聴者からの質問を起点に、大下弁護士とFRONTEO池上によるディスカッションで調査の実態を明らかにしていきます。
テーマ1.第三者委員会はどのような経緯で設置されるのか?
大下:端緒として多いのは、内部通報や監査法人による監査です。そこで、何らかの問題が発覚して、企業内で調査が行われ、その結果、社会的な影響が大きいと判断されて第三者委員会の設置へ移行する例が多いです。では、誰がそれを判断するのか? これはケースバイケースですが、社外役員が第三者委員会の設置必要性を指摘することもあります。上場企業の場合は証券取引所や監督官庁が求めてくる場合もありますし、監査法人が業務を遂行するために設置を促す例もよくあります。設置を決めるのは取締役会ですが、決めたとしても自社と利害関係がある弁護士や公認会計士は委員になれません。委員の人選経緯も様々ですが、委員長が選ばれ、委員や調査会社はその人からの紹介で選ばれるケースもあります。
池上:スムーズに行けば問題はないのですが、委員の選任に時間がかかりすぎ、調査時間が限定されてしまうことも稀にあります。誰が専門家なのかを見極めるのはなかなか難しく、設置する上での課題になっています。
テーマ2.第三者委員会の調査は、内部調査とどこが違うのか?
大下:調査内容自体に大きな違いはありません。証拠の検討と関係者へのヒアリングが中心になる点は同じだと思います。ただ、上場企業の場合は「内部統制が十分に機能していたか」という点も大きな調査対象です。この点は、内部調査では、十分な調査は難しいと思います。また、第三者委員会は企業から独立しているので、当該案件だけでなく類似案件を含めた調査を行うことができます。つまり、調査範囲や調査対象を、企業から独立した委員の専権で決める。さらに言うと、デジタルフォレンジック調査が推奨される点も第三者委員会の特徴です。むしろ、デジタル・フォレンジック調査を実施しない場合には、その理由について説明が求められるだろうと思います。
池上:先生がおっしゃるように、統制環境の有無は非常に重要だと思います。問題を起こしたのは組織なのか、個人なのか。事実は私たちのような第三者委員会の補助者が網羅的にデジタルフォレンジック調査をしないと見えてきません。調査の結果、私たちは膨大な全体データから関連のあるデータを抽出し、先生方に提示して根本原因を解明していただくわけです。データの種類はメールやチャットなどのテキストデータがほとんどですが、役員が使っていた古い手帳をスキャンすることもあります。
大下:議事録や社内規定書なども調査対象になりますが、手がかりになるのはやはりメールやチャットです。第三者委員会に強制調査の権限はありませんが、メール等に不正の証拠が残っていれば、「これについて説明してください」と対象者を追求することができる。そこから個人の不正なのか企業ぐるみの不正なのか、役員は知っていて放置していたのか、積極的に関わっていたのか。こうした点を深掘りしていくのです。
池上:内部調査の場合、コストの関係から調査範囲を限定することが多々あります。一方、網羅性の低い調査を行ってしまうと類似の問題が後から次々と出てきて、結局は企業価値を毀損してしまう。最初の段階でしっかりした網羅性の高い調査を行い、問題が大きいと分かったら迷わず、第三者委員会の設置を決める。1回で終わらせることが何よりも重要です。
大下:調査委員会を何度も設置している企業がありますが、その分、大きな費用がかかっているはずです。
第三者委員会につなぐ前段階で状況把握に努める
テーマ3.外部の調査会社を選定する際の具体的なポイントは?
大下:ガイドラインには調査期間の厳守が明記されています。会計不正がある場合、上場企業なら決算前に結果報告書を出さなければなりません。調査期間は1~3カ月といったところです。ちなみに第三者委員会の設置費用は案件によって異なりますので、一概には言えません。スピーディな調査を行う会社、早く契約できる会社を選ぶことは当然ですが、同時に調査内容が妥当である点を確認することも大切です。
池上:選ばれる立場の私たちも第三者委員会のタイトな状況が分かっていますから、参加を打診された際は案件詳細を素早く効率的に把握する為、無駄な質問をしないようにしています。
テーマ4.不祥事の再発防止策として第三者委員会が行っていることは?
大下:役職に対する服務規程の厳格化、社内規定の見直し、管理体制の再構築を必ず提言しています。近年は情報セキュリティ体制の再構築を促すことも多いですね。
池上:私たち調査会社は、実効性のある不正検知対策体制の設置を重視しています。クライアント企業が対策を行った時は、それが定着したかを確認するためのテストも行っています。不正を行った企業に改善に向けたインセンティブを与えることは、とても重要。米国では司法省が当社が提供した改善の取り組みを行った企業の罰を軽くしているくらいです。
テーマ5.調査に入ったあと、想定外の事態に遭遇したことはありますか?
大下:事前に発覚した問題に加え、調査段階で新たな問題が出てくることは決して珍しくありません。それが原因でスケジュールが延び、コストアップすることが第三者委員会の大きな課題になっています。リスク担当者の皆さんは、第三者委員会につなぐ前段階で状況把握をしっかり行ってください。社内は大混乱していると思いますが、それが企業のダメージを最小限に留める最善策になるのです。
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。