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「課徴金制度の導入」が企業に与える影響と対策
元厚労省薬系技官が解説する平時監査の重要性
「課徴金制度」とは、特定の法律において、違反事業者に金銭的不利益を課す行政措置のこと。現在、課徴金制度は、「独占禁止法(1977年導入)」「金融商品取引法(2005年導入)」「公認会計士法(2008年導入)」「景品表示法(2016年導入)」「薬機法(2021年導入)」に導入されています。課徴金制度が企業活動にどのような影響を与え、どのような対策をすべきなのか? 今回は、「薬機法」課徴金制度を中心に、その導入の背景や制度の詳細について説明していきます。解説していただいたのは、厚生労働省、経済産業省、環境省などを経て現在、東京薬科大学で教授を務める益山光一氏です。
1993年4月より厚生労働省(当時:厚生省)に入省。その後、厚生労働省では、食品衛生、研究開発、地域保健、診療報酬、薬価、医薬品の審査管理、在宅医療等の業務に携わるとともに、経済産業省(当時:通商産業省)、環境省(当時;環境庁)、内閣官房、医薬品医療機器総合機構への出向経験を有する。現在、東京薬科大学薬学部薬事関係法規研究室にて教授を務める。
株式会社FRONTEO
取締役/AIソリューション事業統轄 兼 社長室長
山本 麻理
広告代理店に入社後、リスクマネジメント会社に在籍。メンタルヘルスケア事業を立上げ、事業計画、商品開発、マーケティング、営業戦略を実行し業界トップシェアへと導く。2014年に同社取締役に就任し、2017年に東証一部上場を実現。2018年12月より株式会社FRONTEOに参画、2020年取締役に就任しAIソリューション事業全域を管掌・指揮。
薬機法で課徴金制度が導入されるきっかけとなった2つの背景
薬機法の課徴金制度は、医薬品的な効能効果を標榜した不適切な広告や宣伝が多く確認されていたことを踏まえて、導入されたものです。厚生労働省が発表している「医薬品等の広告規制について」によると、「売上向上による収益の確保を目的として行われる違法行為としては、広告違反が最たるもの」と記載されています。課徴金制度導入のきっかけのひとつとなった例から紹介していきます。
益山氏(以下敬称略):薬機法で課徴金制度が導入されるきっかけとして「虚偽・誇大広告に関する事例」が挙げられます。この事例のひとつが「ディオバン事件」です。高血圧症治療薬である「製品名:ディオバン(一般名:バルサルタン)」に関する臨床研究データの改ざん、そして改ざんに至るまでの不適切な対応や不正行為があったとして知られている事件です。私が厚生労働省に在籍していた当時の出来事で、大変衝撃を受けました。世界的な製薬大手「ノバルティスファーマ」がバルサルタンについて、虚偽の内容を含む論文を学術雑誌に掲載させて、その論文を利用した宣伝をしたなどとして薬機法違反の疑いで刑事告発し、現在、最高裁で係争中です。
薬機法改正前の状況としては、虚偽・誇大広告に違反した場合の罰金の水準は最高でも200万円で、大手製薬企業にとっては医薬品の売上金と比較するとそれほどダメージとなるような額ではありませんでした。そのため、違法行為によって不当に利益を得た企業に対して、相応の対処が必要だという指摘が各所から出ていました。
益山:たとえば、2013年参議院厚生労働委員会では「不正なデータを使用することで得た売上があることは間違いないので社会的に何らかの還元をすべき」、2017年の参議院決算委員会では「社会的制裁を受けたとはいえ、売上をすべて持っていっているという結果的に逃げ得になっていることについて何か考えなければならない」など国会でも指摘が入りました。ちなみに、バルサルタンに関しては、2007年頃に日本国内で年間約1400億円を売り上げており、大変大きな額であることが分かります。
薬機法における課徴金制度の趣旨・目的や処分の流れ
薬機法において課徴金制度が導入された当初は違法に得た利益をはく奪することを目的としていましたが、現在は、違反行為の抑止効果が第一義とされています。
益山:薬機法の課徴金制度が導入された趣旨としては、医薬品や医療機器などの虚偽・誇大広告に対してその販売で得た利益を徴収することで、違反行為の抑止を図ることを目的としています。課徴金額は、原則、「違反を行っていた期間中における対象商品の売上額×4.5%」と定められています。広告の該当性も明記されていて、「顧客を誘引する意図が明確であること」「特定医薬品等の商品名が明らかにされていること」「一般人が認知できる状態であること」が挙げられます。措置命令の対象行為としては、虚偽・誇大広告に加え、未承認の医薬品の広告も含まれ、名称や製造方法、効果・効能に関する広告が禁止となっています。
景表法の課徴金制度が適用された「クレベリン事件」と「トロピカーナ事件」
もともと課徴金制度は、「独占禁止法」「金融商品取引法」に対する不適切な経済活動を想定していましたが、はじめて「広告」も対象になったのが「景品表示法」の課徴金制度です。薬機法の課徴金と近いとされているのがこの景品表示法の課徴金制度。景表法の課徴金制度が適用された2つの例をご紹介します。
益山:1件目の例が「クレベリン」です。コロナ禍で手に取った方も多いと思いますが、「クレベリン 置き型」「クレベリン スティック ペンタイプ」など関連商品が対象となりました。たとえば、「クレベリン 置き型 60g」については、「空間のウイルス除去・除菌・消臭にご使用いただけます」と表示されていました。「利用環境による」ことや「すべてを除去できるものではない」ことを表示していましたが、あたかもこの商品から発生する二酸化塩素の作用により室内空間に浮遊するウイルスや菌が除去・除菌される効果が得られるかのように表示をしていたことが問題となりました。結果、2023年4月、景品表示法第8条第1項の規定に基づき、課徴金納付命令の対象となり、課徴金額は6億744万円でした。金額の大きさはもちろんですが、消費者庁長官より課徴金納付命令とする内容が公表され、消費者にも認知されることとなったことも、企業としてはダメージだったのではないでしょうか。
益山:もう1件の例がキリンビバレッジの「トロピカーナ 100% まるごと果実感 メロンテイスト」という商品です。「100% MELON TASTE」と表示することで、原材料の大部分がメロン果汁であるかのように示していたことが問題となったものです。分かりやすい表示で販売を促進したいという意図に加えて、「この値段でマスクメロン100%だと思う人はいないだろう」という思いでこのような表示になったのだろうと想像しますが、問題となったのは、実際の原材料の98%がりんごやバナナ果汁で、メロン果汁は2%程度しか入っていなかったことです。これが課徴金対象行為であるとして、2023年8月までに1915万円の支払い命令が出されました。こういった景品表示違反事例も参考にして、今後は、薬機法においても不適切と判断される事例が出ないように留意していくことが重要だと考えています。
薬機法に関して、視聴者からいくつか質問が届いています。
質問その1:虚偽・誇大表示を抑止するために、必要なことは?
益山:大手の製薬企業からすると、営業担当者であるMRの活動状況も規制されている中で、まず起こりえるのが純粋な「ミス」です。不当表示に当たるかどうか、いわゆる“グレー”の部分に関しては、人それぞれ認識の差があります。大丈夫だろうと思いこみ、つい発信してしまうことがよくあります。もうひとつは、グレーだと認識しながら発信するケースです。厳しい規制のもとに、多くの企業では社内ルールを定めているはずなのですが、必ずしも現場で反映されるとは限りません。ルールに沿った無味乾燥なコミュニケーションの中では販売に繋がらないので、現場で自分なりにアレンジしたとき、本人が考えている以上に誇大な情報となってしまうことがあります。ミスや意図的な誇大表示が個人によるものであっても、最終的に企業に損害を与えてしまうリスクがあります。不当表示を早期発見するという部分でポイントとなるのが、内部告発です。告発しなければ改善しない状況ではなく、告発前に早めに察知し問題を解決することができるようになると理想的だと思います。
質問その2:糖尿病薬を用いた簡単ダイエットを標榜した事例は規制されるのか?
クリニックなどの医療機関で行われている、「糖尿病薬を用いた簡単ダイエット」はどのように規制されるのか、という質問です。
益山:非常に難しい問題ですね。ご質問の糖尿病薬はおそらくGLP-1の糖尿病治療薬でしょうか。こちらは海外では肥満の治療薬として認められている糖尿病治療薬です。海外では日本と状況が違い、BMI値が30-40程度ある人が多くいる中で、治療薬として使用されていますが、日本人の場合は数値上では必要ない人がダイエット目的となっているケースがあります。医師は自由診療という形で診療が可能で、患者も保険を使わずに自費診療であると認識したうえで治療が行われています。根拠のない医薬品を使うのはもちろんNGですが、海外で承認されている医薬品を個人輸入して使う医師を法律で規制することは現状では難しいですね。医師会もこうした案件を問題視していて、医学の倫理に反するのではないかというコメントなども出ていますが、いますぐ法で規制するのは難しい状況です。とはいえ、糖尿病の治療薬であるがゆえに、医師監修のもとでも低血糖などの健康被害などが生じた際は、国民の健康を守るため、今後、不適切な場合には一歩踏み込んだ法規制が必要になってくると思います。
質問その3:課徴金制度はさらに拡大していく?
最後に、「取り締まりが厳しくなる傾向にある課徴金制度ですが、今後、さらに拡大する傾向にあるのでしょうか」という質問にお答えいただきました。
益山:今後、課徴金制度が拡大するか否かは、「課徴金による抑止効果」の有無が判断基準になると思います。2019年の薬機法改正で、今回の課徴金制度が導入されましたが、この法律にも「付帯決議」が付きました。付帯決議とは、国会の衆議院・参議院の委員会が法律案を可決する際、その法律の運用や改善希望などを表明するものです。課徴金制度についての付帯決議は、その抑止効果を確認することが必要な期間として5年程度が目安とし、今後も運用状況を見守っていく状況となっています。
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