【第11回不正対策勉強会】不正を見逃す企業にまん延する「属人的管理」の実態と対策 ~第三者委員会経験を持つ現役弁護士×FRONTEOが語る不正のリアル~
2024年1月18日【第7回不正対策勉強会】弁護士/公認会計士が解説。内部監査・内部通報制度の活用による 現場の可視化とグローバル・コンプライアンス達成に向けた道筋
2024年2月26日【2023年12月21日開催 第12回不正対策勉強会】
続「内部通報の件数が多い100社」ランキングから考察する仮説と対策
東洋経済『CSR企業総覧』前編集長が解説する内部通報の現状と問題点
当勉強会が2023年5月23日に開催した講演会『「内部通報の件数が多い100社」ランキングから考察する仮説と対策』は、企業経営者やリスク管理担当の方々から大きな注目を集めました。大手企業の不正問題が続いていることもあり、内部通報制度は業界を問わず幅広い企業で認知されつつあります。では、実際のところ内部通報制度はどれほどの比率で活用され、どのような効果を上げているのでしょうか? また、制度の運用現場が抱えているリアルな課題も気になります。続編の今回も『CSR企業総覧』編集部前編集長であり、現在は東洋経済編集部の編集委員を務めておられる岸本吉浩氏をお招きし、最新データに基づいた様々な分析を行っていただきました。講演後のモデレートディスカッションと質疑応答には、FRONTEOでビジネスインテリジェンス事業本部副本部長を務める早川徹也も参加。多面的な視点から、内部通報制度のあり方を考察しました。
前 東洋経済『CSR企業総覧』編集長
現 東洋経済編集部 編集委員
岸本 吉浩
1996年東洋経済新報社入社。各種企業調査にかかわる。2009年1月から2023年3月まで『CSR企業総覧』編集長として、CSR調査、各種企業評価を担当。著書に『週1回株スクリーニングで資産10倍をめざす本』、『実証会計学で考える企業価値と株価』、『指標とランキングでわかる! 本当のホワイト企業の見つけ方』(共著含む)、ほか関連電子書籍など。
株式会社FRONTEO
ビジネスインテリジェンス事業本部 副本部長
公認不正検査士
早川 徹也
1995年に株式会社東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。入社後は製造業を中心に、東証一部(当時)上場企業や外国企業、中堅中小企業を担当。また複数の企画部署で担当やマネージャー職、支店・支社指導のマネージャー職を歴任。2017年に支店長兼支社長に就任。2022年に株式会社FRONTEOに入社し、ビジネスインテリジェンス事業本部の副本部長として顧客のリスク管理、業務課題解決を支援。
増加傾向にある内部通報数。従業員の意識が変わってきた?
多くの企業で不祥事が発生した2023年。岸本氏は同年明らかになった内部通報のトピックとして、世間を騒がせた2社の名を挙げました。
岸本氏(以下敬称略):一つはビッグモーターの保険金不正請求問題です。同社の社長と副社長は早々に辞任。その影響は請求相手である損害保険ジャパンにも及び、社長が引責辞任することになりました。また、同社を傘下に持つSOMPOホールディングスの会長兼CEOも退任する意向です。この件はビッグモーターの社員による内部通報が発端でしたが、制度が機能しなかった典型的な事例と言えるでしょう。もう一つの事例はカメラ用レンズの大手企業、タムロンです。2人の歴代社長が私的飲食に多額の経費を流用し、社長交代につながりました。とくに前社長は女性同伴の海外出張などモラルの崩壊が甚だしく、当社をはじめ各社の経済記者が徹底的に追求。発覚のきっかけは内部通報で、こちらは制度がうまく機能したケースとして報道されました。
その内部通報制度ですが、帝国データバンクによる2023年の調査では、窓口を設置済みまたは検討している企業の割合は24.1%となっています(調査対象は全国の2万7052社で、回答率は42.5%)。
岸本:上場企業、有名企業、CSRに力を入れている企業を対象にした当社の調査結果は異なります。『CSR企業総覧』2014年版では、窓口を設置済みの企業は1010社で全体の96.6%。同書の2024年版では1285社で、全体の98%となっています。公益通報者保護法改正によって内部通報制度が義務化されたのは2022年6月ですが、大手企業においては10年前から内部通報窓口の設置が当たり前だったのです。では、どこに重点を置いて調査を行ったら問題の本質が見えてくるのか? 私たちが重視したのは内部通報の件数です。2013年版の件数回答比率は39.4%(197社)でしたが、2024年版では46.4%(795社)にまで増加。少しずつですが、この10年で内部通報制度が一般化してきたことが見て取れます。
『CSR企業総覧』編集部は、2015年から「内部通報が多い企業ランキング」を発表しています。最新の調査結果に基づいた「通報件数の多い上位10社」を見てみましょう。
岸本:これは『CSR企業総覧(ESG編)』2024年版の掲載データを基に作成したグローバルベースの表です。顔ぶれは前回紹介した2023年版とあまり変わっていませんが、各社とも通報件数が前年の調査より増えています。公表される不正問題が増えたため、従業員の内部通報に対する意識が変わりつつあるのかもしれません。
次に、前回も紹介した「注目企業の1件当たり従業員数」を単独ベースと連結ベースで調べた最新の調査結果を見てみましょう。
岸本:「中国電力」「SOMPOホールディングス」「東京電力ホールディングス」の3社は単独ベースでは1件当たり100人以下ですが、各社とも連結ベースで見ると100人を越えています。極端な例は冒頭で名を出した「タムロン」ですね。通報件数自体も2件しかなく、1件当たりの従業員数は3000人近い数字になっています。ここで目安にした100人は、私たちが内部通報の調査を始めてから導き出した基準となる数値。前回の勉強会で説明したとおり、私たちは、「従業員数100人に対して1件くらいの通報はあるべき」だと考えています。調査年度を重ねるに従って検証が進み、この見方が適切である可能性が高くなってきました。
一方で、連結でも100人を下回る企業は多々あります。つまり、これらの企業では従業員数に比して内部通報の件数が多いということ。最新のデータを見ると、大きな不正問題を起こした企業と起こしていない企業が混在しています。
岸本:トップの「エーザイ」は、早くからCSRに注力してきた優良企業です。全子会社にコンプライアンス窓口を設置し、海外子会社から本社への直通ラインも整備済み。また、窓口が内部通報に限らず幅広い問い合わせを受け付けているのも大きな特徴です。ハードルが低いので、従業員が通報しやすいのでしょう。ほとんどは規則などに関する問い合わせのようですが。オリンパスは不正会計問題で揺れましたが、経営陣を刷新した効果が出ているのかもしれません。
「今まで何もなかったから、これからも大丈夫」は通用しない
10年以上の調査から、編集部は「内部通報件数の少ない企業は不祥事を起こす可能性が高くなり、件数が一定数以上ある企業はその可能性が若干低くなる」という結論に至りました。また、近年の調査結果から得た新たな気づきもあります。
岸本:ここ数年の調査から、私たちは「ハラスメント防止の取り組みが参考になる」ことに気が付きました。通報件数の多い企業は法律に違反している事例だけでなく、ハラスメントに関する通報も幅広く受け付けています。例えば日産自動車。同社は社内に独自のシステムを構築し、ハラスメント防止に努めています。また、スギホールディングスでは外部の人員が一次対応するコンプライアンス110番を設置。被害に遭った従業員が通報しやすい環境を整えています。実際の通報件数を増やすうえでも、こうした取り組みは効果的だと思いますね。
結局のところ、内部通報制度をうまく機能させるためにはどのような取り組みが求められるのでしょう? 岸本氏は前回挙げた4つのポイントに、2つの新しい取り組みを加えました。
岸本:一つは、内部通報に対する姿勢を積極的に社外公表(宣言)することです。当社のCSR調査など経済系メディアに情報を伝える方法もありますし、統合報告書(財務情報と非財務情報を集約した資料)に掲載する方法もあります。もちろん公表後に問題が起きれば大いに批判されますが、それは仕方のないこと。経営サイドの本気度は間違いなく従業員に伝わります。もう一つのポイントは、社内に通知する際、ハラスメント受付の要素を打ち出すこと。お悩み相談的な形にすることで従業員の抵抗感が減り、より多くの通報を集めることができるのです。私が経営者の皆さんにお伝えしたいのは、「今まで何もなかったから、これからも大丈夫だろう」という甘い考えは、もはや通用しないということ。時代は変わりました。事前に不正の目をつぶすことが、結局は会社や経営者を守ることになるのです。
件数? 内容? 今後の内部通報制度はどうあるべきか
講演後のモデレートディスカッションと質疑応答では、視聴者から多くの質問が寄せられました。FRONTEOの早川とともに解説していただきました。
質問1:今後、内部通報に対する社会の意識はどのように変わっていくでしょう?
岸本:2023年だけでも内部通報に関する報道は格段に増えました。講演で述べたハラスメント対応のように従業員にとっても通報しやすい環境が整ってきましたから、今後はより一般化していくと思われます。
早川:私はカジュアル化というか、社会の仕組みとして浸透してきたように思います。制度があっても、使われなければ意味はありません。当社や岸本さんの仕事が忙しくなるくらい、内部通報制度が当たり前の仕組みになるよう期待しています。
質問2:内部通報が増えてきた今こそ、ガイドラインに対する理解が必要なのでは?
岸本:確かに、これまで我慢していた人が通報するケースは増えています。消費者庁は既に「内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を制定していますが、全ての項目を従業員に伝えるのはなかなか難しい。企業のリスク管理担当者は「ここまではできる」「この部分は守られる」というポイントを明確にし、分かりやすく伝えるべきでしょう。
早川:内部通報者にとって最も重要なのは、通報しても解雇や降格といった不当な扱いを受けないことです。担当者と従業員の間で今一度、内部通報者の立場が保護されることを確認しておきましょう。
質問3:今後の内部通報制度のあり方と、企業が取りうる対策について教えてください
岸本:経営者や役員に求められるのは意識改革です。従業員が内部通報しやすい環境をつくるのは当たり前であり、必ずやらなければならないこと。しかも制度をつくるだけでは不十分で、その制度を誰もが使えるよう従業員に周知徹底し、担当者を教育することも大切です。昔と同じではないことを肝に銘じていただきたいですね。
早川:内部通報制度の整備と同時に考えるべきは、不正や不祥事の発生を未然に防ぐこと。企業には、不正リスクを早期に発見するための具体的な対策が求められています。私は公認不正検査士ですが、この肩書きが要らなくなる社会が理想だと思っています。
質問4:通報数よりも通報内容が重要なのでは?
岸本:通報内容が重要なのはもちろんですが、私たちはその通報自体が集まらないことに問題があると考えています。問題を起こす企業はそもそも通報件数が少ないですからね。ますは社会全体として、企業の通報件数を増やす努力をすべきでしょう。
質問5:内部通報の件数が多い方が健全なら、「ハインリッヒの法則」が成り立たないということですか?
岸本:「ハインリッヒの法則」は、1つの重大事故の背後に29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという労働災害上の経験則です。集まる通報が全て意味のあるものなら、この法則は成り立つでしょう。でも現状では無意味な通報も山ほどあります。数が集まらないと意味のある通報も増えず、本当の問題は見えてきません。この点からも、私は件数を増やすことが何よりも重要だと考えています。
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。