【第3回不正対策勉強会】平時監査の重要性とその構築方法不正・フォレンジック調査に精通する弁護士が解説
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2024年6月3日【2024年3月26日開催 第14回不正対策勉強会】
内部通報体制の心構え
“救済申立て型”通報への対応と事実認定
近年、企業における内部通報制度のあり方や通報への向き合い方が変わりつつあります。2022年6月に公益通報者保護法の一部が改正され、事業者に体制の整備が義務付けられたことも大きいでしょう。ただ、制度運営が拡大したことによって新たな問題が表面化してきました。運営者の精神的負担が増えているのです。被通報者からの反発、通報者の過大な期待、事実認定の難しさなどから、内部通報に苦手意識を持つ人も少なくありません。そこで今回の勉強会では、内部通報対応における運営者の不安を取り除き、企業が制度を前向きに捉えるための「心構え」について考察しました。お招きしたのは、企業のコンプライアンス分野で豊富な対応経験を持つ弁護士の山田 将之先生。現場を踏まえた的確なアドバイスは、自社の内部通報制度を見直すきっかけになるかもしれません。また、質疑応答コーナーには株式会社FRONTEO ビジネスインテリジェンス事業本部 副本部長の早川徹也も参加。不正対策ツール事業者の立場から意見を述べました。
山田 将之法律事務所 代表
弁護士、ニューヨーク州弁護士
山田 将之
2005年西村ときわ法律事務所(現:西村あさひ法律事務所・外国法共同事業)入所、2017年同事務所パートナー。2023年山田将之法律事務所設立。長年、企業不祥事対応やコンプライアンスに関する分野に携わり、企業内のコンプライアンス委員会や賞罰委員会の委員、内部通報受付窓口、第三者委員会の委員等として、様々な組織を内外から見てきた経験を持つ。
株式会社FRONTEO
ビジネスインテリジェンス事業本部 副本部長
公認不正検査士
早川 徹也
1995年に株式会社東海銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。入社後は製造業を中心に、東証一部(当時)上場企業や外国企業、中堅中小企業を担当。また複数の企画部署で担当やマネージャー職、支店・支社指導のマネージャー職を歴任。2017年に支店長兼支社長に就任。2022年に株式会社FRONTEOに入社し、ビジネスインテリジェンス事業本部の副本部長として顧客のリスク管理、業務課題解決を支援。
内部通報制度を機能させるために必要な「教育・周知」
内部通報体制を整えても、それを活性化するのは簡単ではありません。制度を機能させるため、運営者はどのような措置を取ればいいのでしょう?
山田先生(以下敬称略):必要な措置は2つあります。まずは通報制度についての「教育・周知」。これができていれば通報対応自体がやりやすくなります。そして「調査・事実認定・フィードバックを確実に行う」こと。どちらも通報者への向き合い方や姿勢など、運営者のマインドに直接関わる部分です。最初に、教育・周知のゴールを対象ごとに考えてみましょう。「通報者」に対しては、制度を正しく理解して適切に利用してもらうことがゴールになります。そのため、運営者は通報に際して匿名利用が可能なことや、運営側に守秘義務があることなどを説明しなければなりません。潜在的な「被通報者」に対する教育のゴールは、通報者の探索や不利益扱いをしないこと。運営者は被通報者に対し、もしそういうことをすれば懲戒処分の対象になることや、制度の重要性を説明する必要があります。その「制度運営者」に対する教育は、通報に正しく向き合って対処することがゴールになります。運営者は守秘義務があること、情報の取り扱いや制度の重要性をしっかり理解しなければなりません。公益通報者保護法の改正時に周知して以降、内部通報制度について従業員に周知していないという企業様があれば、これを機会にぜひ教育・周知をお願いしたいと思います。
「教育・周知」の重要性はデータからも明らかです。山田先生は消費者庁が今年2月に公表した「内部通報制度に関する意識調査(就労者1万人アンケート調査)」を取り上げました。
山田:この中に内部通報制度の理解度別調査があります。「勤務先の重大な法令違反を一番通報しやすい先(選択肢は勤務先・行政機関・報道機関など)はどこですか?」という質問に対し、「内部通報制度をよく知っている」と回答した人は58.3%の割合で「勤務先」と答えました。対して「インターネット上のウェブサイト、SNS等」の割合は、わずか5.5%です。一方、「内部通報制度について知らない」と回答した人の数値を見ると、「勤務先」と答えた人は44.3%で、「インターネット上のウェブサイト、SNS等」と答えた人は22.2%もいます。この結果から分かるのは、周知をすればするほど制度への信頼が高まること。制度に対する信頼があれば通報者とのやりとりがスムーズにいく可能性が高くなりますし、通報に関する心配事がないと分かれば利用頻度が上がり、制度の活性化も実現するでしょう。「周知をすれば通報が増えて困る」という声もありますが、それは本末転倒で、人員不足が原因。体制を整備することで対処すべきです。
制度運営者を悩ませる「助けてください」の声への対応
昨今の問題点は「制度運営者の精神的負担が増していること」です。何がどのような形で運営者を悩ませているのでしょう?
山田:運営者が苦手意識を感じる理由は複数あります。よくあるのは被通報者からの反発、そして被通報者への遠慮ですね。ハラスメントや横領など、事実調査の段階では聞きにくいことや失礼なことも質問しなければなりません。相手が役員や上司なら、相当大きなプレッシャーになるでしょう。難しい場面ですが、適切な調査を行うという観点で質問の必要性を判断し、ある程度割り切って対応するしかありません。もう一つの難しさは、通報者からの要求や不満に起因しています。特に難しいのが、「私(あるいは私に近しい者)が被害者です。助けてください」という“救済申立て型”の通報の場合です。ハラスメントの大半はこのケースと言えるでしょう。この場合は自分が被害者なので当然、通報者の関心は高いわけです。「すぐに対応してほしい」「あの人でなくこの人に聞いてほしい」など、運営者に対する要求も多くなります。だからこそ、結論が通報者の思いどおりにならないと反発も大きくなる。時には運営者が再調査を求められることもあります。しかし、調査の結果、通報者が仕事をしない人物で、上司からの通常の指示をハラスメントとして通報したといった事例も珍しくありません。
対応への不満や反発を生みやすい“救済申立て型”の通報。山田先生は制度運営者が苦慮する問題点を指摘しました。
山田:ここで考えていただきたいのは、内部通報制度が「社内の問題を発見し、自浄作用を発揮する」ためにあるということ。個人の救済は是正措置の一部ですが、会社にとって全てではありません。また、通報者と会社の間の紛争となれば利益相反の問題も生じ得ます。通報者が期待することと、会社がやるべきことや運営者ができることに乖離が生じ、運営者が板挟み状態になることはあり得ます。これが原因で、運営者が通報に対して消極的になることもあるでしょう。誤解してほしくないのですが、通報者は悪くありません。現在の仕組みの中では、内部通報制度を利用して自身の救済を求めるのは当然であり、そのために自身にとって適切な対応を求めるのも当然のことです。問題は、運営者に多くのことが求められ過ぎていることにあります。内部通報制度はコンプライアンス機能の一つですが、実際には運営者に対して人事、法務、さらにはカウンセリング的なことまで要求されます。全てを完璧にこなすのは弁護士でも難しい。運営者は「通報に対して中立・公平な立場で対処する」という自分の役割を認識し、それを果たすことだけを考えるべきです。
制度運営者が守るべき3つのポイント
制度運営者の役割・心構えとして、山田先生は3つのポイントを挙げました。これらができていれば、運営者は萎縮せず堂々と通報対応に向き合えます。
山田:人は自信が持てないことを苦手と感じます。「自分がやっていることは正しい」と確信するために、以下の3点を確認してください。第1のポイントは「適切な調査」です。通常は、まずは通報者から情報を収集する。ここで大切なのは、通報者から情報を収集する際、可能な限り、通報を裏付ける客観的な資料を提出してもらうこと。拒否されたら「提出することがあなたのメリットになる」と説明し、理解を得ることが大切です。また、被通報者がハイレベルな役職者の場合は通報があったことをつい一報したくなるものですが、調査の信用性に傷が付くおそれもあります。事前に情報を共有せず、最後の段階で話を聞くようにしましょう。加えて、調査の主題を明確にすることも忘れてはなりません。調査終了後に「自分はそんなことを調べてほしかったわけではない」と言われるケースもよくあります。通報者とは初期の段階から認識のすり合わせを行ってください。
第2のポイントは「適切な事実認定」。通報者と被通報者の言い分が異なるのは当たり前ですから、ここはかなり難しい部分です。
山田:密室で行われたハラスメントの場合など、事実認定が困難なケースは多々あります。しかしながら通報者と被通報者の話が食い違い、客観的な証拠がない場合でも、安易に「通報対象事実はなかった」という結論を出すべきではありません。背景やそこにいたる事情を考慮して、どちらがより信用できるのかをしっかりと見極めて、結論を出すことが大切になります。ただ、お互いの供述が食い違っていても、どちらかが嘘をついているとは断言できません。人にはバイアスがありますし、そもそも記憶は曖昧なものですから。
最後のポイントは「適切なフィードバック」。目の前の対応に追われる運営者が意外に見逃しがちな部分です。
山田:運営者が最初に行うのは通報者に向けた「受理しました」という連絡で、これが通報対応への信頼を生む第一歩となります。可能な限り速やかに行いましょう。注意してほしいのは“救済申立て型”通報者の場合ですね。自分事であるが故に運営者との間でタイムラインの感覚がずれ、「まだ結論が出ないのか?」と不満を生じやすいのです。時間がかかることを正直に説明して理解を得るしかありません。調査の進捗状況を丁寧に説明すると、通報者が結論を受け入れやすくなるという傾向もあります。もちろん調査の結論についても明確に示す必要がありますが、結論に至った理由をどこまで説明するかは、運営者にとって非常に悩ましいところです。フィードバックが必要なのは、会社が対応しないのであれば外部に通報・情報提供する、という選択肢を通報者に与えるためです。そのため、最低限、調査結果は明確に伝える必要があります。調査の詳細、認定に至った経緯などは、状況に応じて無理のない範囲で説明すべきでしょう。
通報者がクレーマー化してしまった場合はどうする?
今回の勉強会では、参加された方々から興味深い質問が数多く寄せられました。FRONTEO早川とのディスカッション形式で、山田先生に答えていただきました。
質問1.従業員の数に対し、何%くらいの通報件数が一般的なのでしょうか?
山田:これは企業様によって様々ですね。数百人規模の会社で月に数件あれば活用されている方だと思います。逆に1年間で全く通報がない会社の場合は、今一度活用法を見直していただきたいですね。
質問2.通報したことがきっかけになり、通報者が退職した事例はありますか?
山田:ありますね。反対に退職が決まったから通報したという事例もありますし、どちらが先なのか判然としない例も珍しくありません。
質問3.エビデンスが集まらなかった場合の対応策はありますか?
山田:事案にもよりますが、ハラスメントの場合、周囲の人から話を聞けるケースなら範囲を広げてヒアリングするといいでしょう。実際の調査では、通報者と被通報者のどちらにも偏らないことは滅多にありません。通報者の話に「これは創作では語れない」というくらいの信憑性があれば、結論としては出せると思います。
早川:FRONTEOの長年の不正調査の経験からも、調査の方法次第で結論に至るヒントは得られることが分かっています。今は調査方法も変わりましたし、証拠を見つける手段も多様になっていますから。
質問4.通報者が調査結果に納得せず、クレーマーのようになってしまいました。就業規則に照らし合わせて処罰対象にしたいのですが、注意点はありますか?
山田:私もこういう事例に直面し、会社の名誉や信用を毀損しないよう警告文を発した例もあります。注意すべき点は、通報をしたことを理由とした“不利益取扱い”に当たらないようにすること。時間をかけ、ステップを踏んで対応することが必要です。
早川:クレーマー化を防ぐためにも、社内コミュニケーションのモニタリングをお勧めしたいですね。FRONTEOの不正リスク予見ツールなら、メールの文面から人間心理を読むことができます。
質問5.証拠不十分の場合、訴訟リスクを恐れて処分を下さない会社があると聞きました。訴訟リスクはそこまで大きいのでしょうか?
山田:懲戒解雇する場合は訴訟になるケースがありますが、解雇処分以外の場合、訴訟リスクはそこまで大きくありません。会社としてのメッセージと考え、割り切って処分を行うことの方が多いと思います。
質問6.被通報者の聴取は必須でしょうか? 弊社ではハラスメントの通報があった場合、通報者とハラスメントを目撃した人々への聴取だけで結論を出すことがあります。
山田:通報の事実が認められない場合はそれでいいと思います。周囲の証言からハラスメントが認められた場合は懲戒処分の手続きに入るため、どこかで弁明聴取が行われます。その段階で必ず話を聞くことになりますね。
早川:ハラスメントは外から見つけにくいのが難点です。通報されてから調べるのは当然ですが、芽の段階で摘み取るためにも事前に対処していただきたいと思います。
FRONTEOでは、EmailをはじめLINE、Slack、Teamsといった社内のコミュニケーションツールに対応したAIによる監査ツールを開発、監査業務の工数を大幅に削減した平時監査ソリューションを提供しています。品質不正、カルテル、贈収賄、ハラスメント。情報漏洩……社内に内在するリスクを可視化することで企業の内部不正を未然に防ぎます。
万が一、社内で内部不正が起きた場合、スマホ、タブレット、PCなど当該社員のデジタルデバイスをはじめ、各種サーバー、システム内のログファイル等を調査する必要があります。FRONTEOは、フォレンジックと呼ばれるこの不正調査のパイオニアとして2000件以上の調査実績を誇ります。情報漏えい/データ改ざん/横領・キックバック/国内談合/購買不正/労務問題/怪文書作成元特定/ハラスメント問題/セキュリティ事案……とあらゆる不正調査に対応可能です。