社会とともに発展を続けるヘルスケア産業のトップイノベーターを目指し、高度な個別化医療の推進や、将来的な創薬手法の拡大、デジタル技術を活用した新たな強みの獲得などに積極的に取り組む中外製薬。
業界をリードする安全性マネジメント体制や、多様化するニーズにきめ細かく対応するソリューション提供体制を敷く同社では、AIを活用し、医師への情報提供の最適化やガイドライン対応を進めています。
この取り組みを推進する医薬安全性本部 安全性コミュニケーション部の担当者に話を聞きました。
ーお話を伺った方ー
中外製薬株式会社 医薬安全性本部 安全性コミュニケーション部
グループマネジャー 田端 秀日朗 氏富澤 志帆 氏小林 拓朗 氏
中外製薬株式会社
https://www.chugai-pharm.co.jp/
KIBIT導入の効果
・大量すぎて不可能だったMR日報データの絞り込みを週1時間の作業で実現
・現場が本当に欲しかった「医師の生の声」を見つけだすことが可能に
・データ分析を専門としないスタッフでも、新規テーマの解析に挑戦できる体制に
グループマネジャー 田端 秀日朗 氏
医療用医薬品メーカーには、臨床の医師から予期せぬ症状や副作用に関する問い合わせが多く寄せられます。患者様の症状や体質は一人ひとり違い、治療環境も異なるため、医師が抱える不安や懸念はさまざまです。そこで中外製薬では、営業担当者(以下、MR)だけでなく、治験の情報や学術的な知識を持つセイフティエキスパート(以下、SE)を全国に配置し、医療現場の医師に対しヒアリングや安全性情報の提供を行っています。2017年には、SEをサポートし「医師のニーズにあわせた情報提供」を強化することを目的に、安全性コミュニケーション部が新設されました。
安全性コミュニケーション部のグループマネージャーであり、医師で博士号を持つ田端秀日朗氏は、部の発足当時のもどかしさをこう話します。
「知見や安全性など、医薬品にまつわる資料は膨大にあるものの、それらは社内にバラバラに保管されていました。このため、SEが必要とする情報をピックアップしてまとめたいと思っても、どこから手をつけてよいかわからない状態でした」(田端氏)
また、SEがいくら治験の情報や学術的な情報を持っていたとしても、どの医師がどの情報を必要としているのか分からなければ「ニーズにあわせた情報提供」は実現できません。
「医師の疑問や懸念、つまり、医師がどのような情報を欲しいと思っているのかを直接聞いているMRの日報が営業管理システムに蓄積されています。その中には、安全性情報に関わる重要なヒントが隠されていることも多くあるのですが、1,300名いるMRの日報の内容をすべて確認するのは現実的ではありませんでした。何かよい手段がないかと模索していたときに、テキスト解析に強みを持つKIBITの存在を知りました」(田端氏)
「初めてFRONTEOの担当の方にお会いした際のことはよく覚えています。我々の業務を丁寧に理解していただき、その上で課題の掘り下げを共に行ってくれました。我々が曖昧にしか考えられていなかった「有益な日報」という言葉を、「顕在化した医師の課題」「潜在的に抱えている要望」といった形で言語化していただいたことで、その後のPoC(※)や導入のポイントを明確にすることができました。結果として導入後の運用までスムーズに進めたと感じています」(田端氏)
※ PoC: Proof of Concept 概念実証、新しい概念やアイディアの実証を目的とした導入前の検証作業
小林 拓朗 氏
PoC フェーズからKIBIT活用に携わってきた安全性業務の実務担当者であり、SE経験者でもある小林拓朗氏は、KIBITの良さについて、こう語ります。 「KIBITでの解析は、『A先生が○○に困っている』と医師の個別課題を把握できる点が便利だと感じています。データ全体を俯瞰することも大事ですが、SEが対応を行うためには、個々の事例を把握することが重要なんです。テキストマイニングのような分析ツールでは深掘りできない情報の発見に直接役立ってくれる点が、SE実務経験者からするととても助かるKIBITのポイントです」(小林氏)
また、KIBITの操作性についても評価しています。
「KIBITは操作が簡単で、短時間で欲しいデータがぱっと出てくるのがよいですね。他のツールでは事前データの成形やインプットに時間がかかることがありましたが、KIBITはBIツールなどに触れたことのある方なら、2時間程度で操作できるようになると思います。また、現在は弊社が利用しているRPAツールを用いることで、分析ツールにありがちな、煩雑なデータのインポート作業も自動化できています」(小林氏)
KIBITを活用することで、お客様である医師が「困っているタイミング」に、「知りたい情報+α」を提供し、サポートできるようになり、医師の満足度はあがったといいます。医師の満足度の高さは、患者様に貢献できている証でもあるのです。
以前は自身がSEとして活動していた小林氏も、この取り組みに手応えを感じています。
「情報提供にあたっては『医師のニーズを特定する,掘り起こす』ことが最初のステップになりますが、KIBITを活用することでこのステップが非常にスムーズになります。私がSEとして活動していた時にこの仕組みがあれば、より多くの先生にスピード感を持って対応できたな,と感じています。」(小林氏)
もちろん、業務工数の削減にも、大きな効果が出ています。
「日報1本を読むのに1分かかるとして、単純計算で1週間当たり50時間程度かかる作業が、今は1週間に1時間ほどで済むようになりました。その費用対効果を考えただけでもKIBITを導入した価値は明らかです」(田端氏)
安全性コミュニケーション部では、MR日報の分析に加え、KIBIT活用の場を販売情報提供活動ガイドラインのモニタリングにまで広げ検証、実用を進めています。また他部門においても、日報データの営業・マーケティング目的での活用、医師・患者様への提供資料や講演会スライドの審査などのテーマで、KIBIT活用の検討が進んでいます。
その他にも様々な領域での活用を検討しており、これまで検討されたテーマは20にものぼります。
富澤 志帆 氏
安全性業務の実務担当者であり、KIBITの運用管理者でもある富澤志帆氏はこう語ります。
「MRの日報データは、『適切な説明ができるMRは誰か』といった人材発掘にも活用できると思います。SEと組んで支店全体の知識向上を目指す教育的活動に参加してくれそうなMRを見つけるなど、多くの可能性があります。FRONTEOのカスタマーサクセスチームは、私たちの疑問に対して的確な返答をくれますし、『KIBITはこういうことは向いていません』と、難しいものは難しいときちんと伝えてくれるのでありがたいです」(富澤氏)
新たなデータソースの活用も積極的に進めています。
「日報だけでなく、これまでリーチできなかったニュースサイトや文献、厚生労働省が出している議事録などのデータソースにも活用のチャンスがあるのではないかと考え、解析にトライしています。KIBITは、思いついたものから自分の手で試しに解析していけるのがいいですね。実際に面白いデータは取れていて、SEに展開することもあります」(小林氏)
「製薬会社にとって、安全性を守る活動は非常に重要であり、GXP(※)という規制もあります。弊社は規制遵守はもちろんのこと、医師や患者さんのためにもう一歩踏み込んだサポートを行いたい。それには個々のニーズを的確に把握できるKIBITとの相性がよいのではないかと考えています。今後も、新たな業務領域でのKIBIT活用を試行しながら、革新に向けてチャレンジを続けていきたいと思います」(田端氏)
※Good × Practice の略称。医薬品及び医療機器の開発・製造販売において遵守が求められるGLP(Good Laboratory Practice:医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準)、GVP (Good Vigilance Practice:医薬品の製造販売後安全管理基準)などをはじめとする各種省令の総称