金融機関と切っても切り離せない業務の一つであるコンプライアンス管理。多くの金融機関が多大な労力をかける一方で、より効率的に、より確実な管理ができないか模索しています。
「親しみやすく、便利で、わかりやすい」銀行を目指し、2007年10月に開業したイオン銀行では、コンプライアンス管理の1つである面談記録のモニタリング業務にAIとRPAを導入。先進的な環境の構築により業務工数の約80%を削減することに成功しました。
この取り組みについて、同行 法務・コンプライアンス部 統括マネージャーの小杉剛雄氏にお話を伺いました。
ーお話を伺った方ー
株式会社イオン銀行 法務・コンプライアンス部
統括マネージャー 小杉剛雄氏
本事例のポイント
・KIBIT導入の決め手は、必要な教師データの少なさ
・人の目でチェックする記録件数を、大幅に削減
・RPAとの併用で、運用がより効率的に
法務・コンプライアンス部 統括マネージャー
小杉剛雄 氏
金融商品の販売・営業活動には、投資家(顧客)の保護等を目的に、金融商品取引法をはじめとする様々な規制が適用され、金融機関では、社員の営業活動が適切に行われているか、コンプライアンスの観点から日々モニタリングしています。代表的な手法としては、日報などで提出された顧客とのコミュニケーション記録を、上長や管理部門が確認するというものがあげられます。限られた人数で多数の記録をチェックするモニタリング業務の運用手法・工数の改善は、多くの金融機関で課題となっています。
「我々も、投資信託の面談記録をモニタリングする中で、まさに同様の課題を抱えていました。当行では面談記録、取引明細、外貨と保険の残高明細をそれぞれ異なるシステムで管理しているのですが、複数のシステムを同時に参照しながらのモニタリング業務はなかなか手間で、どんなベテランでも、1件の確認に最低6分はかかっていました」(小杉氏)
また、モニタリング対象となる面談記録の件数も、業務を行う上で大きな負担となっていました。
「モニタリング対象となる面談記録は、月平均で2,500件程度です。1件あたり6分としても、モニタリングに月間250時間を費やしているということになります。この業務を2名で対応していましたが、負荷が高く、AIを使ってどうにか改善できないかとかねてから考えていました」
小杉氏がKIBITに興味を持ったのは、あるセミナーがきっかけでした。
「たまたま参加したセミナーで、他行の方が面談記録のチェックにKIBITを活用されているという話を聞きました。半信半疑でしたが、すぐにFRONTEOに問い合わせ、PoC※を行うことになりました」
ー PoCで、どのような苦労がありましたか?
「大変だったのは、教師データの収集です。教師データとするのは、コンプライアンス上の疑いがある面談記録なのですが、当然のことながらそういった記録はほとんど存在しません。たとえ数件であったとしても、集めるのにとても苦労しました。これからAIを導入しようという方には、データ収集だけは今から行っておくことをおすすめします」
ー KIBIT導入の決め手はどこにありましたか?
「実は他のシステムも検討していたのですが、そちらは教師データが5,000件必要とのことで、我々には現実的でありませんでした。KIBITの場合、その教師データが少量でもOKというのが大きかったですね。解析精度も満足できるものであったため、導入を決断しました」
※ PoC: Proof of Concept 概念実証、新しい概念やアイディアの実証を目的とした導入前の検証作業
ー 2018年9月に開始したKIBITによる面談記録のモニタリングについて、導入の効果を伺いました。
「PoCを通して作成した学習モデルの精度は、『KIBITが付与するスコア下位40%をモニタリングすれば、コンプライアンス違反の疑いがある 面談記録のおよそ90%を抽出できる』というものでした <図1>。 これを1つの目安として、現在も下位40%の面談記録をチェックしています。つまり、60%の件数を削減できているというわけです」
ー RPAを併用することにした背景を教えてください。
「当初は、KIBITの導入でチェック件数が削減できれば十分だと考えていました。ただ、実際の業務で思ったほどの効果が出ていなかったのです。モニタリングには文章内容だけでなく、入力漏れといった形式チェックも含まれます。KIBITで前者(文章内容のチェック)が不要と判断された記録も、後者(形式チェック)を従来通り人間が行うと、見なくても良い文章内容が気になり、ついチェックしてしまっていたのです。まだ効率化の余地があることに気がつき、形式チェックにRPAを併用することにしました」<表1>
ー RPAの併用で、どの程度の効率化が実現できましたか?
「RPAツールを使ってシステムに入力された内容の形式チェックを行い、KIBITを搭載した『Knowledge Probe』にチェック済みのデータをアップロードして解析しています。形式チェックについては完全に自動化し、文章内容のチェックについては60%を削減しており、モニタリング業務全体としては約80%の工数削減を実現できています。導入前は50%程度削減できれば良いと考えていたので、今回の取り組みには非常に満足しています」
ー 今後はどのような取り組みを計画されていますか?
「面談記録のモニタリングについては、一定の成果を出すことができ、運用の中でモデルの精度向上に取り組んでいるところです。今後は、通話記録などの音声データのモニタリングや、営業成績の良い行員の会話内容の解析・ノウハウ展開を検討しています。KIBITで音声データを解析するためには、まずテキスト変換が必要となりますので、この変換精度をいかに上げていくかが課題です。ただ、FRONTEOではすでに、テキスト変換した音声データの解析についても実績があるということなので、実現可能だと期待しています」
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※記載内容は、2019年10月時点のものです。