営業考査部 取引考査課長
槙家 潔氏
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、以前よりコンプライアンスの観点から取引のモニタリングを行ってきました。しかし、お客さま本位のサービス提供には、より高度なモニタリングの実施が必要だと考えました。
「従来、弊社での取引モニタリングは、お客さまとの取引が約定した時を起点に、お客さまとのやり取りを過去にさかのぼってチェックするという、事後検証の形式で行われていました。この検証は現在も行っています。それに加え、当社グループの共通指針である『MUFGフィデュ―シャリー・デューティー基本方針』に基づき、当社の営業をアドバイザリー型ビジネスに転換していく上で、よりお客さまに信頼されるサービスを提供するには、事後検証だけでなく、お客さまに適切な提案が行われているかを早期に検知して未然に防止するモニタリングの仕組みが求められます」(槙家氏)
しかし、対象となる通話記録は膨大です。
「解析対象はお客さまとの通話記録ですが、全国の本支店、コールセンター、担当者が持つ携帯電話などで取り交わされる通話は1日に4万件以上、時間にして数千時間にも及びます。これを早期に全量を解析するには、新しいシステムの構築とAIの活用が不可欠だと考え、プロジェクトを開始しました」(米沢氏)
FRONTEOのAIならではのシンプルなシステムで新たな価値を創造
多くの製品、サービスを検証する中で、どのような点がKIBIT導入の決め手となったのでしょうか。
「本プロジェクトで採用するAIツールについて、多くの製品、サービスを検討しました。弊社では営業日報を解析する仕組みとして、「KIBIT-Knowledge Probe」を既に導入しており、社内でのノウハウを積み上げることができていた点でKIBITに優位性がありました。またKIBITは他社での導入実績が豊富であり、そうした導入事例も踏まえて、KIBITの導入が最善のパフォーマンスにつながると考え、導入を決断しました」(槙家氏)
今回構築したシステムは、通話記録のテキスト化を行う「音声テキスト化システム」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が開発した結果表示用の「アプリケーション」を、KIBITをAPIとして提供する「KIBIT-Connect」で連携させました。1日最大4万件という通話データを音声テキスト化システムに連携し、出力した通話データをKIBITが解析します。解析結果のうち人による二次検証が必要と判断された通話のみアプリケーションに送られ、各拠点の内部管理責任者等がモニタリングを行います。「KIBIT-Connect」の導入についてうかがいました。
システム部 チャネルシステム課 部長代理
塩谷 知英氏
「KIBIT-Connectの導入に際し、システム面で長所だと感じたのは、高度な自然言語解析AIにもかかわらず汎用的なサーバで稼働できる点です。専用機器や特別なGPUは必要なく、非常に導入しやすかったです」(塩谷氏)
運用面でも KIBIT-Connect には大きなメリットがあったそうです。
MUS情報システム株式会社
リテールシステムグループ リテールチャネルシステム部 アソシエイトエンジニア
石丸 将司氏
「KIBIT-Connectは、シンプルなシステム構成で導入できる点も特長です。AI解析なので、当然ながら中身は最先端ですが、バッチ処理がサーバで動き、解析結果がデータベースに格納され、後続システムにデータを引き渡すという一般的な処理プロセスでした。バッチ処理を実行する際、ジョブの実行管理やエラーを検知するソフトウェアを使用しますが、当社の運用監視チームで利用しているものと同じソフトウェアを利用できました。つまり、当社標準の運用監視ができるということで、大きなメリットを感じています」(石丸氏)
また、FRONTEOの対応にも満足いただけました。
「FRONTEOのエンジニアにシステム設計の支援を依頼し、投入予定のデータ量から処理時間を計算し、必要なサーバのスペックを提示いただきました。導入後の実績を見ても大きな差がなく、想定通りの結果です。他社の事例などを参考に計算されているそうですが、当社としては安心材料の一つになりました」(塩谷氏)
KIBITのしきい値設定と業務負荷のバランスが運用のテーマ
システム構築はスムーズでしたが、実際に運用を始めるには苦労した点もありました。
「音声認識による通話のテキスト化が第一のハードルでした。証券業務には銘柄名や『指し値』『大引け』といった専門用語が非常に多く存在します。こうした一般的ではない単語がお客さまと担当者の間で頻繁に交わされるのですが、なかなか音声テキスト化システムに認識されなかったのです。これは専門用語を学習させることで対応できました」(槙家氏)
一方、KIBITの運用では精度のしきい値と業務負荷のバランスが大きなテーマとなっています。
「単純なルールを順守しているか否かといった事象は、会話で使用される用語がある程度限定的なこともあり、一定の精度を達成しやすく、KIBITが算出するスコアの何点以上を「疑義あり」とするのか、しきい値の決定も容易です。しかし、お客さま本位の営業(フィデュ―シャリー・デューティー)が実現できているかという観点からは、抽出すべき事象があまりにも複雑で、しきい値の設定に苦慮しました。事象を漏らさず抽出するには、しきい値を下げてモニタリング量を増やせばよいのですが、下げ過ぎると内部管理責任者等がモニタリング業務に追われてパンクしてしまいます。この抽出精度と業務負荷の最適なバランスでの設定はとても難しく、現在も最適解を検証し続けています」(米沢氏)
通話モニタリングシステムがもたらした意識改革
今回のシステムを運用する中で、担当者のスキル向上、意識改革にも効果があったそうです。
「常日頃から、必要に応じて研修や指導などの対応を行っているのですが、内部管理責任者等のチェックの結果、注意すべき行為が見つかった場合、当該部署にフィードバックし、こうした対応が担当者のスキル向上につながったと強く感じています。担当者の対応に何らかの問題があった場合、その担当者自身が問題に気がつき内部管理責任者等に報告、是正対応をしたという話を拠点から聞いています」(槙家氏)
KIBITが抽出した通話記録の中から、意図していなかったもののチェックすべき事象が見つかることもあるとのことです。
「現在、当社では通話記録とKIBITを活用して6つの観点でモニタリングを行っており、その1つは『目論見書等をきちんと交付して説明を行っているか』です。この観点では、 目論見書等の重要書類の到着確認や説明を行う中で不備の可能性がある通話が抽出されますが、これら以外にもチェックすべき事象が見つかることがあります。例えば、お客さまの運転中に担当者が電話をかけてしまった場合です。当然、運転中の電話は危険であり、お客さまの安全に最大限配慮した対応を行うべきで、担当者の都合を優先し確認や説明などを続けるべきではありません。このように、内部管理責任者等がKIBITの抽出した通話には何か問題があるのではないかと前向きに検証に取り組んだ結果、想定とは異なるチェックすべき事象を見つけることも可能となりました」(花岡氏)
KIBITが実現する定量評価を電話応対品質向上にも活用検討
自然言語AI「KIBIT」と音声認識技術を用いた革新的なモニタリングシステムの導入で、モニタリング業務の網羅性と検証精度向上を実現した今回の取り組み。今後の展望についてうかがいました。
「当社では電話の応対品質向上にも取り組んでいますが、評価はすべて人力で行っています。ただ、人力での対応だとなかなか定量的な評価が分かりにくいという課題があります。将来的には電話の応対品質向上にKIBITを活用できないかと現在検討しております。 KIBIT活用の幅を広げ、お客さま満足度のさらなる向上に努めます」(槙家氏)
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※本ページの記載内容は、2022年4月のものです。